7931のあたまんなか

数学/読書メモ/自分の考え方/水曜どうでしょう/交通関係(道路・航空)など、頭の中にあることを書き出しています。

「実数→複素数」と「複素数→実数」の関数があまり論じられない理由

3月になって、ブックオフに数学の専門書がいつもより多く並んでいます。
卒業した大学生が教科書を売りに出したんだろうと思います。自分もそうでした。

この状況、ちょっとワクワクします。
図書館に数学の専門書が少し置いてある程度で、近所に本格的な数学書を扱う書店がないので。

そんな思いで書棚を見ていたら、複素関数論の本がありました。
林一道『初等 関数論』です。

初等 関数論

初等 関数論

複素関数論は学生時代に講義を受けたものの理解できませんでしたが、なんとなく手に取ってみました。

すると、この本の前書きにずっと疑問だったことの答えが書いてありました。

複素関数についての素朴な疑問

複素関数を勉強し始めたころから素朴な疑問がありました。

【疑問】
複素関数を定義域と値域で大きく分類すると、次の4つに分かれる。
(1) 実数→実数
(2) 実数→複素数
(3) 複素数→実数
(4) 複素数複素数
  ※「定義域→値域」の形で書いている。
 
(1)は微分積分学、(4)は複素関数論で議論される。
では、なぜ(2)と(3)は議論されることがほとんどないのか?

「実数⊂複素数」なので、広い意味では(1)~(3)は(4)に含まれます。
一方で、(4)の特殊なケースである(2)と(3)は、独自の理論のようなものはないんだろうか?という疑問です。

その答えについて、『初等 関数論』の前書きをベースにまとめました。

「(2) 実数→複素数」は、最終的に(1)に帰着できる

(2)のような関数(実変数複素数値関数)を  f(t) \ (t \in \mathbb{R}) とします。

 f(t) \in \mathbb{C} なので、(1)の形の関数(実変数実数値関数)  u(t), \ v(t) を使って、 f(t) = u(t) + i v(t) と書けます。

このとき、  f(t) が連続 (resp. 微分可能, 一様連続) ならば、  u(t), \ v(t) も連続 (resp. 微分可能, 一様連続) になります。これは  | \mathrm{Re} (z)|  , \ | \mathrm{Im} (z)| \le |z| \ (z \in \mathbb{C}) から従います。ここで、  \mathrm{Re} (z)  , \ \mathrm{Im} (z) はそれぞれ  z の実部と虚部です。

これにより、  f(t)導関数不定積分を次のように定義できます。
 \displaystyle f'(t) = u'(t) + iv'(t), \ \int f(t)dt = \int u(t)dt + i \int v(t)dt .

不定積分の定義は、ちょっと怪しいかもしれません。複素関数積分の定義から導出するのが正しいのかも…。

つまり、結局は(1)の形の関数の議論(微分積分学)に帰着されます。

「(3) 複素数→実数」は定数関数に限られる

次に、(3)の関数(複素変数実数値関数)です。

『初等 関数論』定理12.1がこれです。(証明は追えていません)

定理
複素平面内の領域(連結開集合)上の正則な実数値関数は、定数関数に限る。*1

これにより、(3)の関数(のうちで領域上で正則な関数)は、実質的に定数関数しかなく、研究対象となりにくいことがわかります。

そう言われてみると、領域という複素平面上で“一定程度の面積を持つ集合”から、実数という“長くても1本の直線である実軸”への正則な関数は、非常に限られるだろうというイメージもできます。(あくまでもイメージです!)

複素関数のことが少しだけわかった

このようなことを考えると、複素関数のことが少しわかった気がします。

もう1つ疑問だったのが、複素関数で線積分が出てくるのはなぜか?ということでした。

「定義だからそういうものだ」と解釈すればそれまでですが、モヤモヤが残っていました。

これは広い意味で複素関数の一部と言える(1)を考える中で少しずつわかってきました。

(1)の関数の定積分は、実数上の区間(半開区間や無限区間などを含む)で定義されます。

この区間複素平面上で考えれば、実軸上の線分や直線と思えます。

それを複素関数に拡張すれば、複素平面上の曲線を使った線積分を定義するのは自然だと思えたわけです。

非常に基本的なところでつまずいていた感じですが、これがわかってとてもすっきりしました。

*1:次のURLの『複素関数の基礎のキソ』の発展問題6-1 (2)に同様の主張があります。 www.math.titech.ac.jp