『数学セミナー2019年1月号』の特集は「国際数学者会議2018」です。
数学セミナー 2019年1月号 通巻 687号 国際数学者会議2018
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2018/12/12
- メディア: 雑誌
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4年に1度開催される国際数学者会議(ICM)の様子と各賞受賞者の業績が紹介されています。
ICM 2018滞在記
2018年8月1日~9日にブラジル・リオデジャネイロで行われたICMの様子が紹介されています。
その中で、プレナリートークの一覧がまとめられています。
私の興味の対象である表現論に関する講演がいくつかあり、講演内容が気になりました。
フィールズ賞:ビルカー
「ファノ多様体の有界性と極小モデルプログラムへの貢献」について書かれています。
双有理幾何学と呼ばれる分野でのBAB予想に対する貢献のようです。
…残念ながら私の能力では理解できませんでした。
フィールズ賞:フィガッリ
偏微分方程式、幾何、確率論の3分野にまたがる貢献での受賞でした。
私が理解可能なものでは変分問題がこれに含まれ、最適輸送問題や流体運動、シャボン玉の形などに関係します。
冒頭では、最適輸送問題の起こりとなったモンジュ問題が数式を使って説明されており、比較的イメージしやすいものでした。
フィールズ賞:ショルツェ
受賞理由については明確な記述はありませんが、筆者との関係性を中心にショルツェさんの業績を紹介しています。
ポイントとなるキーワードは絶対ガロア群とパーフェクトイド空間のようです。
また、ラングランズ対応についても書かれていて、私の興味対象でもあるので気になっています。
前半では、 進数体 と位数 の有限体上の形式ローラン級数体 を使って、パーフェクトイド体が説明されています。
これについては、過去に書いたこの記事が参考になりそうです。
ネヴァリンナ賞:ダスカラキス
受賞理由は「経済的な基本的問題に対する計算複雑度を変えた貢献」と書かれています。
前半はナッシュ均衡計算の困難性、後半はオークションの最適メカニズムの説明です。
個人的には、P vs NP問題の復習から始まっていて、すんなりと読み進めることができました。
また、記事内で最適輸送理論という言葉が出てきており、上述したフィガッリさんの研究との関係を思い起こされました。
ガウス賞:ドノホ
「疎性に着目した情報処理」の観点でドノホさんの業績が説明されています。
議論のスタートは未知変数の個数よりも条件式の個数が少ない連立一次方程式系の話で、数学的議論は比較的易しいように見えます。
数学的内容は置いておいて、次の点がとても印象的でした。
- この研究が生かされる場面が、医療機器のMRIを例に説明されていてわかりやすい。
- 現場での発見的手法から出発して、ドノホさんが研究活動に入り込んだ。
チャーン賞:柏原正樹
多くの数学関係のTwitterアカウントで言及された話題で、柏原さんの受賞はよく知っていた。
また、学生時代に表現論を専門にしていたこともあり、柏原さんの名前も知っていた。
実際に、記事の中にはリー群の表現論に関する話題が多く出てきていている。
フィールズ賞:ヴェンカテシュ
注:この記事は『数学セミナー 2019年2月号』で書かれていますが、関連性を考慮して本エントリに記載します。(2019/2/3追記)
数論の進展に貢献したとの理由でフィールズ賞を受賞したヴェンカテシュの業績について書かれています。
保型L-関数における問題の概説から始まり、その後のヴェンカテシュの業績の説明では、エルゴード理論やリー群の表現論などの言葉が出てきます。
私が最近読んだエドワード・フレンケル『数学の大統一に挑む』の内容に関係すると思われる部分もあり、個人的にはとても興味深いです。
- 作者: エドワード・フレンケル,青木薫
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/07/13
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また、ヴェンカテシュの論文の特徴が随所に書かれているのが印象的です。例えば、このようなことが書かれています。
具体例によるアフターケアが行き届いているところがヴェンカテシュの論文の特徴である(45ページより引用)
ヴェンカテシュの論文にはそういった印象 *1 がほとんどなく,1人でも多くの研究者に自分の研究を理解してもらいたいという気持ちがよく伝わってくる.(48ページより引用)
*1:「分かる人にだけ伝わればよい」というスタンス