加藤文元さんの『宇宙と宇宙をつなぐ数学―IUT理論の衝撃』。
IUT理論(宇宙際タイヒミュラー理論)は、ずーっと気になっていたテーマだったので発売後すぐに読み始めました。
IUT理論についてうっすら知っていたこと
この本の読書メモを書く前に、IUT理論について私がこれまでに知っていたことをまとめておきます。
原論文はもちろん読めなかったが、いくつか気になる用語があった。
IUT理論に関する論文は、提唱者である望月新一教授のサイトで公開されています。
論文は試しに読んでみようと思いましたがダウンロードしてほぼ終わりという感じでした。(あたりまえ)
また、関連する講演資料などもざっと目を通しましてみましたが、何が何だかわからず…。
シアターや通信など、一見数学で使うとは思えない用語があるんだなというのはわかりました。
著者の加藤文元教授のIUT理論に関する講演を見た。
この本の著者の加藤文元教授が、MathPower2017というイベントで行ったIUT理論に関する講演の動画は見たことがありました。
この講演で印象的だったのは「たし算とかけ算の関係は複雑すぎてよくわからない!」ということ。
言葉自体は非常に印象的でしたが、何を意味しているかはわかりませんでした。
この本でIUT理論の雰囲気はよくわかった!
上に書いたようにIUT理論についての断片的な知識がありましたが、この本を読んでそれらが頭の中でつながって、IUT理論の雰囲気がよくわかりました。
「たし算とかけ算の関係は複雑すぎてよくわからない!」という言葉のこころ *1 が理解できたことが理解の突破口になったように思えます。
IUT理論について、この本では中学数学+αの知識で読めるくらいに非常にやさしく書かれており *2 、「これで自分もIUT理論がわかるはずだ!」と錯覚してしまうほどでした。
数学とは?数学者は何をしているか?が効果的に書かれている。
この本では単にIUT理論という数学的内容だけを説明しているわけではなく、「数学とは?」「数学者は何をしているか?」がとても詳しく書かれています。
「詳しく」というよりも「効果的に書かれている」と言った方が適切かもしれません。
IUT理論の概要を解説するという道具を使って、「数学はどういう学問か?」を説明しているようにも思えます。
私は大学院まで数学を専門にして勉強してきましたが、数学はどういう学問かをうまく理解できないまま卒業したので、とてもいい気づきが得られました。
数学そのものに興味がある方におすすめの本です。
いろいろな数学の概念をわかりやすく説明している。
高校・大学で習うような数学の概念のわかりやすい説明も、この本の特徴です。
私にとっては既知の概念が多かったですが、こんなにわかりやすく説明できるのか!と感動しました。
特に、群に関する説明は非常に素晴らしいです。
最後に:対称性は数学で本質的に重要?
この本の前に読んだのは、E.フレンケル教授の『数学の大統一に挑む』でした。
読書メモは以下のブログに書きました。
『数学の大統一に挑む』では、量子物理学では対称性が重要な役割を果たすことが書かれています。
このブログで紹介した『宇宙と宇宙をつなぐ数学―IUT理論の衝撃』でも、2つの数学の舞台の間で対称性を伝え合うことをベースにIUT理論が説明されています。
2冊連続で、対称性が重要なキーワードとして出てきました。
やはり数学では、「対称性」が本質的に重要なものなのかもしれません。