7931のあたまんなか

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特集「フィボナッチ数の大人の楽しみ方」/『数学セミナー 2018年8月号』読書メモ

数学セミナー 2018年8月号』の特集は「フィボナッチ数の大人の楽しみ方」です。

フィボナッチ数列は高校の数列の授業で習うもので、計算の仕方自体は小学生でも理解可能なものです。

このフィボナッチ数列について、

  • 数列自体を深く考える。
  • 数列を拡張して考える。
  • 自然界で見られる現象や図形での応用を考察する。

など、いろいろな側面で語られています。

フィボナッチ数列が棲む空間を考える。

最初の記事で書かれている内容について、線形代数の応用として興味深かったので、メモしておこうと思います。

フィボナッチ数列の漸化式」を満たす数列全体がなす線形空間

漸化式  a_{n+2}=a_{n+1}+a_{n} を満たす実数列  (a_n)_{n=0, 1, 2, \dots} 全体の集合を  \mathcal{F} とすると、これは線形空間になります。

最初の2項  a_0, a_1 を決めると  \mathcal{F} の数列が決まります。この数列を  \mathcal{F}_{(a_0, a_1)} と書くことにします。

 \dim \mathcal{F} = 2 なので、  \mathbb{R}^2 の元  (a_0, a_1) (b_0,b_1) を1次独立に取れば、  \{ \mathcal{F}_{(a_0, a_1)}, \ \mathcal{F}_{(b_0, b_1)} \} \mathcal{F} の基底になります。

フィボナッチ数列とリュカ数列

特に、  (a_0, a_1)=(0,1) とした数列  (F_n) := \mathcal{F}_{(0,1)} は(よく知られた)フィボナッチ数列になります。

また、  (a_0, a_1)=(2,1) とした数列  (L_n) := \mathcal{F}_{(2,1)}リュカ数列と呼ばれています。

したがって、  \mathcal{F}フィボナッチ数列  (F_n) とリュカ数列  (L_n)棲む空間と言えます。

そして、  \{ (F_n), \ (L_n) \} \mathcal{F} の基底になります。

 \mathcal{F} の線形変換を使って基底を取る。

基底の取り方として、線形変換の固有ベクトルを並べる方法があります。

 \mathcal{F} の線形変換として、数列を1つずらす変換  \tau : (a_0,a_1,\dots) \mapsto  (a_1, a_2, \dots) を考えます。

 (a_0, a_1) \in \mathbb{R}^2 に関する  \tau の表現行列  A は、  \begin{pmatrix} a_1 \\ a_2 \end{pmatrix} =  \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} a_0 \\ a_1 \end{pmatrix} より、  A= \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 1 \end{pmatrix} となります。

 A の固有多項式 \det (xI - A) = x^2 -x -1 は2つの根  \displaystyle \alpha := \frac{1+\sqrt{5}}{2}, \ \beta := \frac{1-\sqrt{5}}{2} を持ちます。 \alpha黄金比と呼ばれる数です。

 \alpha \neq \beta より  A は対角化可能で、  P := \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ \alpha & \beta \end{pmatrix} とすると、  P^{-1}AP = \begin{pmatrix} \alpha & 0 \\ 0 & \beta \end{pmatrix} となります。

したがって、  P の2つの縦ベクトルに注目すると、  \{ \mathcal{F}_{(1,\alpha)},  \mathcal{F}_{(1,\beta)} \}  \mathcal{F} の基底になります。

また、対角化された行列に注目すると、  \{ (\alpha^n), (\beta^n) \} も基底になります。

フィボナッチ数列について説明されている内容

  • \mathcal{F} の中で整数のみからなる数列の性質 *1
  • \alpha \beta を使った  F_n L_n の表示
  •  F_n L_n の関係式
  • フィボナッチ数列に関する各種性質
    • 隣り合ったフィボナッチ数の互除法と連分数展開
    • カッシーニの定理
    • 加法定理
    • ペル方程式  (2x+y)^2-5y^2=\pm 4 の解
    • 母関数 *2
  • 素数を法とした性質 *3
    • フィボナッチ数のランク *4
  •  F_n素数である「フィボナッチ素数」について
  • フィボナッチ数の逆数の総和  \displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{F_n}無理数であることの証明

フィボナッチ多項式

フィボナッチ数を拡張したフィボナッチ多項式が定義されます。

これは整数係数多項式で、有理数 \mathbb{Q} や素体  \mathbb{F}_p 上での既約性が議論されています。

対称関数から見たフィボナッチ数

斉次完全対称式、べき和対称式、基本対称式の3つの対称関数を使って、フィボナッチ数の拡張を試みています。

その議論の中では、ガロア群の可換性やフィボナッチ数列の正値単調非減少整数性などが登場します。

フィボナッチ数が「対称関数論、円分体論、組合せ論の3つの領域が交わったところに棲んでいる」という解釈が出てきます。

フィボナッチ数に関するその他の話題

特集内で触れられているその他の話題について、項目をリストします。

植物の種の列のらせんにフィボナッチ数が現れるのはなぜか?
詰め込み問題との関係
図形に現れるフィボナッチ数
大半は小学生でも理解可能と思われる。
正五角形と黄金比の関係
上でも述べたが、フィボナッチ数と黄金比は密接に関係している。
日本フィボナッチ協会
数学者だけでなく、化学者や中高生などが参加しているのが興味深い。

*1:環や体の性質を使って説明されてます。

*2:数学ガール』第4章でも詳しく言及されています。

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

*3:イデアル分解を使って説明されています。

*4:素数で割り切れる項  F_n の周期(周期的に現れることは本文で記載されてます)。