7931のあたまんなか

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2乗すると -I になる行列 ~ 『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』読書メモ

数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』を読みました。

次の記事にも書きましたが、大学で線形代数を学ぶ人にとっては絶好の入門書です。

wed7931.hatenablog.com


この本の第3章では、実数を成分にもつ2×2行列で2乗して  -I I単位行列) になる虚数単位のような行列  J について書かれています。

このような行列について、いろいろと自由に考えたことをまとめておきます。 *1

行列  J の成分表示

このような行列  J の成分表示について、119ページに以下のように書かれています。

解答3-1虚数単位  i に類似した行列)
成分がすべて実数の2×2行列  J で、  a を実数、  b を0以外の実数として、  J= \begin{pmatrix} a & b \\ -\frac{a^2 + 1}{b} &  -a \end{pmatrix} とすれば、  J^2 = -I を満たす。ただし、  I= \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 &  1 \end{pmatrix} とする。

証明は3.8節にあります。

 J を累乗すると、  J^0 = I, \ J^1=J, \ J^2=-I, \ J^3=-J, \ J^4=I となり、確かに虚数単位に似ています。

 a=0, \ b=-1 とすると、  J \begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 &  0 \end{pmatrix} (以下、この行列を  J_0 と置きます)と書けます。

 a, \ b に他の値を代入してみる。

 a=1, \ b=1 を代入すると、  J \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ -2 &  -1 \end{pmatrix} と書けます。 *2

この行列を  I J_0 の一次結合で書けないかを考えてみました。

つまり、  \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ -2 &  -1 \end{pmatrix} = pI + q J_0 となる実数  p, q が存在するかを調べます。

右辺を具体的に成分表示して比較すると、このような  p, q存在しないことがわかります。

一方、  J_0 = 0 \cdot I + 1 \cdot J_0 が成り立ちます。

ということは、  a, \ b の値によっては  J I J_0一次結合で書けない場合があることがわかります。 *3

それでは、 I J_0 の一次結合で書ける  J はどのようなものでしょうか。

 I J_0 は一次独立か?

その前に、 I J_0 は一次独立かを調べてみます。 *4

実数  p, \ q について、  (*) \  pI + q J_0 = O であるとします。

行列成分を書き下して連立方程式を解く証明方法もありますが、ここでは行列成分に頼らない方法で証明します。 *5

 (*) J_0 を掛けて両辺を -1 倍すると、  (**) \ qI - pJ_0 = O となります。

 (*) \times q - (**) \times p を計算すると、  (p^2 + q^2) J_0 = O

両辺に  -J_0 を掛けると  (p^2 + q^2) I = O で、  p^2 + q^2 = 0 から  p=q=0 が得られます。

したがって、  I J_0一次独立であることがわかりました。 *6

 I J_0 の一次結合で書ける  J

元の話に戻って、 I J_0 の一次結合で書ける  J がどのようなものかを考えてみます。

 J = \begin{pmatrix} a & b \\ -\frac{a^2 + 1}{b} &  -a \end{pmatrix} a, \ b は実数で  b \neq 0 )として、実数  p, \ q を使って  J=pI + q J_0 と書けたとします。

行列成分で書き下して計算すると、  (a,b,p,q) = (0, \pm 1 , 0 , \mp 1) のとき、つまり  J = \pm J_0 のときに限ることがわかります。 *7

おわりに

この記事では一次結合という視点で  I J を見てみました。

他にどのような視点での考察があるか。時間があれば調べてみようと思います。

*1:研究問題 3-X1を解いている形です。

*2:研究問題 4-X5では、  a=1, \ b=1 を代入してみよという問題が提示されています。

*3: J の一般形に2乗や分数があることから、もっとスマートに言えるかもしれません。

*4:研究問題 3-X6に提示されています。

*5:つまり、一般の  n \times n 行列で使える方法です。

*6:一般の  J についても、  I J が一次独立であることがわかります(  b \neq 0 に注意して計算する)。したがって、2×2の実行列全体のベクトル空間  M_2(\mathbb{R}) の中の  I J が張る部分空間  \mathrm{Span}_{\mathbb{R}}(I, J) は2次元です。

*7:計算の中で  a^2 - b^2 = \pm 1 という式が見え隠れします。双曲線と何か関係があるんでしょうか?