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射影表現と表現群~『表現論入門セミナー』読書メモ その2

『表現論入門セミナー―具体例から最先端に向かって』の読書メモ第2回です。

表現論入門セミナー―具体例から最先端にむかって

表現論入門セミナー―具体例から最先端にむかって

いろいろな表現(§1.2)

 G のいろいろな表現が、誕生した経緯とともに説明されている。

置換表現

有限群  G置換表現とは、  G から  n 次対称群  \mathfrak{S}_n への準同型のことをいう。

線形表現

ベクトル空間  W 上の可逆な線形変換全体がなす群を  \mathrm{GL}(W) と書く。
 W= \mathbb{C}^d のときは  \mathrm{GL}(d, \mathbb{C}) と書き、これは正則な  d 次正方行列全体である。

 G線形表現とは、準同型  \pi : G \to \mathrm{GL}(W) のことをいう。

線形表現の指標

線形表現  \pi指標  \chi_{\pi} は、各  g \in G \chi_{\pi}(g) = \mathrm{tr}( \pi (g)) \in \mathbb{C} で定義される。これは  G の1次元表現になる。

分数変換と表現

 m 次正方行列  A = (a_{ij}) \in M_m(\mathbb{C}) に対して、分数変換  P_A : \mathbb{C}^{m-1} \to \mathbb{C}^{m-1} を次のように定義する:

 x := (x_i) \in \mathbb{C}^{m-1} に対して、  P_A (x)  \in \mathbb{C}^{m-1} の第  i 成分が  \displaystyle x_i ' = \frac{ \sum_{k=1}^{m-1} a_{ik}x_{k} + a_{im}}{\sum_{k=1}^{m-1} a_{mk}x_{k} + a_{mm}}  ( 1 \le i \le m-1) と書かれる。

ここで、  P_{\lambda A} = P_A , \ P_A \cdot P_B = P_{AB} , \ P_A^{ \ -1} = P_{A^{-1}}  (A,  B \in \mathrm{GL}(m, \mathbb{C}), \ \lambda \in \mathbb{C}^{\times}) に注意する。

すると、 P_{\bullet}  \mathrm{GL}(m, \mathbb{C}) の表現に見える。これが  (m-1) 次元の複素射影空間上の表現になるようだ。 *1

射影表現

有限群  G射影表現  \Pi とは、  g \in G \Pi (g) \in \mathrm{GL}(m, \mathbb{C}) を対応させて、  \Pi(g) \Pi(h) = r_{g,h} \Pi (gh)  (g, h \in G, \ r_{g,h} \in  \mathbb{C}^{\times}) を満たすものをいう。

線形表現は射影表現の特別な場合

スカラー  r_{g,h} が常に1 (つまり  r_{g,h} \equiv 1 )の場合は、  \Pi は線形表現になる。

射影線形群

 \mathrm{GL}(m, \mathbb{C}) の中心(すべての元と可換な元)は  \{ \lambda 1_m \ | \ \lambda \in \mathbb{C}^{\times} \} \simeq \mathbb{C}^{\times}  となる。

 \mathrm{PGL} (m, \mathbb{C}) :=  \mathrm{GL}(m, \mathbb{C}) / \mathbb{C}^{\times} 射影線形群と呼ぶ。

射影表現の別の見方

以上により、射影表現  \Pi G から  \mathrm{PGL} (m, \mathbb{C}) への準同型と言える。 *2

射影表現を線形表現に直せるか?

表現論で最も重要な数学者であるシューア *3 が考えたのは、「任意の射影表現をスカラー倍で修正して、線形表現に直せるか?」ということだったという。

つまり、射影表現  \Pi について、  \Pi (g) \lambda_{g} \Pi(g) \ (\lambda_{g} \neq 0) に置き換えて線形表現が得られるかということである。

この答えを、中心拡大という概念を使って得た。

中心拡大

 \widetilde{G} が有限群  G中心拡大であることを次のように定義する:

全射準同型  \phi : \widetilde{G} \to G で、  Z := \mathrm{Ker} \ \phi  \widetilde{G} の中心に入るものが存在する。(言い換えると、  Z の元はすべての  \widetilde{G} の元と可換である。)

シューアの問題の答え

有限群  G の適当な中心拡大  \widetilde{G} を取れば、  G の任意の射影表現が  \widetilde{G} の線形表現になる。

中心拡大について言えること

  • 群準同型の図式  1 \to Z \to \widetilde{G} \xrightarrow{\phi} G \to 1 は完全であるともいえる。
    • 完全であるとは、準同型  f_i たちについて、  \mathrm{Im} \ f_{i-1} = \mathrm{Ker} \ f_i \ (\forall \ i) を満たすことをいう。 *4

表現群

中心拡大のうちで最も‘効率的’なものはすべて有限群で、同型を除いて有限個のみであることが知られている。

これを  G表現群という。

表現群の具体例

 n 次対称群と交代群の表現群は§1.2.4~§1.3.2で説明されている。

*1: x_i' の定義の分母が0になるときの対処に関係する。

*2:定数倍を同一視している形なので、まさに「射影」という言葉がぴったりだと思った。

*3:本書では、「シュア」と綴っている。

*4:『数学セミナー 2018年11月号』 P76で完全系列について言及されている。(連載「双対と表現」第2回)