『数学セミナー 2019年4月号』と『数学セミナー 2019年5月号』には、特集「大学数学のキーポイント」が前篇・後篇に分けて書かれています。
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大学数学の勉強の心構えや仕方、いろいろな数学分野のポイントが書かれています。
特に印象に残った内容について、この記事でまとめます。
代数学をどう理解していくか *4
(1) 群・環・体の例は、小中学校から学んできた数(実数、整数など)で触れている。
- 例:剰余環(例えば )の最も身近な例は「奇数+偶数=奇数」「奇数×偶数=偶数」などの関係。
(2) 代数的対象の具体例を考えると、解析学の命題を代数学の言葉で言い換えることができ、代数学や層の理論で考察を進めることができる。
- 例:領域上の正則関数全体をなす環を考えると、複素関数論での一致の定理の言い換えができる。
解けない微分方程式との付き合い方 *5
様々な現象をモデル化して微分方程式で定式化することはよく行われるが、具体的に解ける微分方程式はきわめて少ない。そのため、「具体的な解を構成できないからあきらめる」ではなく、微分方程式の解の性質を知ることが目標になる。
そのアプローチはいくつかある。
確率変数の見方 *6
高校までで学んだ数を「固い数」と考えると、確率変数で指定される1点はゆらぎを持った「やわらかい数」と考えることができる。
そう考えると、確率統計で扱う内容が見通しよく見えるかもしれない。
複素関数での様々な定義や定理の見方 *7
(1) 実関数の微分可能性と比較すると、複素関数の正則性は非常に強い条件である。
(2) 複素関数では「任意の点で連続だが、任意の点で微分不可能な関数」を得ることは容易(例: )。実関数では難しい(例:ワイエルシュトラスの関数、高木関数)。
(3) コーシー-リーマンの方程式の導出:実軸上の点 で とした極限と、虚軸上の点 で とした極限が一致することを考えればよい。
(4) を考えると、実関数では指数関数が単調増加関数だったが、複素関数では周期 の周期関数になる。
(5) ある条件で単純閉曲線上での積分値が 0 になることを主張するコーシーの積分定理は、閉曲線上の1点 から までの積分が 0 であると考えると、実関数では当然に成り立つ との類似に見える。
(6) リュービルの定理 *8 の見方:実関数では は有界だが、複素関数 は非有界である(虚軸上の値 は非有界 *9 )。
(7) 一致の定理 *10 の見方:正則関数は正則性を保ったまま一部分の値だけを変えることは不可能である。実関数では容易に得られる。
物理で使う数学 *11
(1) 物理学の習得に向けては「物理現象の記述に必要な数学」をあらかじめ学ぶ。 *12
(2) 物理を理解するためには、分野によっては偏微分方程式/微分形式/微分幾何学/リー代数など多岐にわたる。すべてを詳しく知らなければならないというわけではない。
*1:『数学セミナー 2019年5月号』の「数学書の選び方・読み方」より
*2:個人的には、自由形スタイルの数学書を多く読みたいという思いがある。
*3:『数学セミナー 2019年4月号』の「線形代数」と「微分積分で学ぶこと」より
*4:『数学セミナー 2019年5月号』の「群と環 ― 透き通った言葉として」より
*5:『数学セミナー 2019年5月号』の「「微分方程式論」の道しるべ」より
*6:『数学セミナー 2019年5月号』の「時代が求める確率統計」より
*7:『数学セミナー 2019年5月号』の「複素関数論入門」より
*8:[tex: \mathbb{C} 全体で有界な正則関数は定数関数である。
*9: では で、 とするとわかる。
*10:定義域内に集積点を持つような可算点列上で値が一致すれば、定義域全体で関数が一致する。
*11:『数学セミナー 2019年5月号』の「物理数学」より
*12:私は数学科出身なので、実態はよくわかりません。