『数学セミナー 2022年9月号』読書メモ
2019年前半ころまで、月刊誌『数学セミナー』の読書メモをこのブログでまとめていました。
なんとなく気が向いたので、約3年ぶりにこの読書メモを再開してみます。
今回は、2022年9月号です。
特集「積分のいろいろな顔」
積分に関する歴史的な側面
「放物線の求積」では、ギリシャ数学での放物線の求積(放物線と直線で囲まれた部分の面積の計算)について説明されています。
“天秤”に関する話が出てきて、どこかで見たことがあると思っていたら、オンライン数学デーで説明されていたものでした。
ギリシャ数学に関する次の説明はなるほどと思いました。
アルキメデスは個別の図形を超越した抽象的な量を示す言語,つまり記号法を持たなかったからこそ,個々の図形に関心を寄せ,個別の方法を巧妙に当てはめ,多くの見事な結果を生んでいった. (P21より引用)
また、カヴァリエリの原理についての「従来の線分の総和による求積から、比を用いた比較による求積ができるようにした」という説明が印象的です。
いつもと違うルベーグ積分の見方
「リーマン積分とヘンストック積分」では、「現在はルベーグ積分の前にリーマン積分を勉強するのが一般的だが、リーマン積分である必要があるのか?」という考えたこともない観点が出てきます。
それがヘンストック積分で、分割の“幅”の評価の仕方が違うもののリーマン積分とほぼ同様に定義されます。
ヘンストック積分には次のような性質があり、ヘンストック可積分性はリーマン可積分性とルベーグ可積分性を包含するという主張です。
一方で、ヘンストック積分には以下のようなデメリットがあります。(これはリーマン積分でも一部同じ?)
実際に、リーマン積分の学習をヘンストック積分で置き換えられないかという DUMP-THE-RIEMANN-INTEGRAL-PROJECT (D.R.I.P.) というものがあるようです。
「ルベーグ積分」では、「ルベーグ積分の教程について、測度の構成定理に時間を要し、ルベーグ積分の定義に至るまでに息切れしてしまうケースが見受けられる」という主張があり、自分もまさにそうだったと思いました。
筆者は、測度の構成定理を後回しにした教科書として『ルベーグ積分入門―使うための理論と演習』を書いたということで、ルベーグ積分の学習に苦しんだ経験者として読んでみようと思いました。
ちなみに、私は『ルベーグ積分講義』を読んで、ようやくルベーグ積分が理解できたと思っています。数学科を卒業して約15年後のことです。
そのときの読書メモはこちらです。
「線型汎関数としての積分」では、線形汎関数を用いたダニエルの方法によりルベーグ積分を“取り出す”ことをしていて、ルベーグ積分の別の見方を提示しています。(キーワード:線形束、集合環)
可積分関数 から可積分集合 の特性関数を取り出す「押し上げ」の操作 をグラフで表したものが、個人的にはとてもおもしろかったです。
コラッツ予想の楽しみ方/ラジオ番組『たまむすび』出演顛末記
今号で最も楽しみにしていた記事です。
コラッツ予想と『たまむすび』の関係はこちらからどうぞ。
www.tbsradio.jp
www.tbsradio.jp
ラジオ出演の裏側だけでなく、コラッツ予想の数学的な捉え方(整数論だけでなく、力学系やテレンス・タオの最新の結果など)も書かれていて、とても勉強になりました。
せいすうたん(第2部)[第6回]/シングマスター予想
シングマスター予想は、パスカルの三角形に含まれる整数の個数の上限に関する予想です。
パスカルの三角形に含まれる2以上の整数は“それほど多くない”ということに初めて気付かされました。(言われてみると当たり前)
目で視る曲線と曲面[第6回]/曲面のパラメータ表示
球面の2種類のパラメータ表示 と について、球面上の 曲線と 曲線が異なることがわかるように示されている図が掲載されています。
前者の 曲線と 曲線はそれぞれ緯線と経線になります。
組合せ論彷徨[第6回]/対称群の表の組合せ論(1)
学生時代にうっすらと聞いていた「対称群とヤング図形(組合せ論)とKdV方程式(可積分系)」の関係への言及がされています。
具体的には、カッツ-ムーディリー環の基本表現の最高ウェイトの考察などが書かれています。
数学応用のクラフトビール
千葉大学での数学を応用したクラフトビール作りについて書かれています。
“味”や“香り”を考えるのに数値計算を使うのは容易に想像できますが、代数構造の1つである束を使った形式概念分析を用いるというのがとても新鮮に感じました。
数セミメディアガイド/三歩進んで二歩さがった先に
『子どもの算数,なんでそうなる?』 の書評です。
我が家にも中学生と小学生の息子がいますが、算数のテストの間違えたところについて話を聞いてみると、勉強になることがたくさんあります。
テストの○×だけで一喜一憂するのではなく、しっかりと話を聞いてフォローすることが大事だと思わされます。