7931のあたまんなか

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連載「やわらかいイデアの話」 ~ 『数学セミナー』読書メモ

数学セミナー』2018年4月号から、藤田博司さんによる「やわらかいイデアのはなし」が連載されています。

位相空間の初歩の話をする連載です。

各月の内容を自分なりにまとめるのがこの記事の目的です。

なお、偶数月号で講義、奇数月号で前月の演習問題の解説をするスタイルの予定とのことです。

私の位相空間の思い出

連載の内容まとめの前に、私にとっての位相空間の思い出を書いておきます。

位相空間を初めて知ったのは大学1年の数学科の講義で、教科書は『集合・位相入門』(松坂和夫著)が指定されました。

集合・位相入門

集合・位相入門

位相空間の特徴づけとして、開集合系の公理から入りました。

その後、閉集合や近傍などの概念、写像の連続性、点列の収束、距離空間、コンパクト性などと進んだ記憶があります。

ユークリッド空間  \mathbb{R}^n での各概念のイメージはおおよそつかめましたが、一般の位相空間ではイメージができないまま卒業したという形です。

【第1回 - 2018年4月号】大きい数・近い点・近傍フィルター

まずは、集合の基本についての説明です。

次は、「十分大きな実数」「十分近い点」という一見すると不思議な言葉について考え、フィルター近傍フィルターの定義が説明されます。

この近傍フィルターを手がかりに、位相について学ぼうということです。

最初に書いた開集合系とは異なる導入なので、今後の展開が楽しみです。

【第2回 - 2018年5月号】大きい数・近い点・近傍フィルター(演習)

第1回で出された4つの演習問題の解説です。

演習3の(5)の証明は私も試みましたが、議論が煩雑になり混乱してしまいました。本文中の記号でいうと、  r, \ \mathrm{P}, \ \mathrm{P'} , \ \mathrm{Q} を証明中で混乱して使ってしまったのが原因でした。

なお、本筋からずれますが、本文中の次の言葉が印象的でした。

大学の数学に初めて触れる人の中には,こうした「正解がひとつでない状況」に戸惑う人も多いようです。
(『数学セミナー 2018年5月号』46ページより引用)

本文中の例とは異なりますが、「ε-δ式の証明で具体的にδを与えるときに複数の候補からどれを選ぶかで悩む」というようなことです。

私にも同じ経験があるので、この気持ちはよ~くわかります。

【第3回 - 2018年6月号】近傍フィルターを生み出すしくみ ― 距離関数と開集合系

これまでに導入された近傍フィルターと今回導入される開集合系が同等であることをが説明されています。

距離空間

  • 距離関数の定義
  • 距離空間の例
    •  \mathbb{R}^2 上の距離(通常とは異なる距離)
    •  \mathbb{N} のべき集合上の距離
      • 部分集合の対称差を使って定義する。
      • カントール空間のひとつの実現方法
    •  \mathbb{Z} 上の)  p 進距離
  • 距離空間であれば、近傍フィルターは定義される。
  • 逆に、近傍フィルターは必ずしも距離関数で与えられるわけではない。
    • 本文に具体例あり。
    • あらゆる距離関数について、具体例で示した近傍フィルターが得られないことを示している。

近傍フィルターと開集合系

  • 近傍フィルターの性質を吟味して、開集合を定義している。
  • 開集合の性質を吟味して、開集合系を定義している。
  • 近傍フィルターを定めることと開集合系を定めることは同等であることを示し、位相空間を定義している。

【第4回 - 2018年7月号】近傍フィルターを生み出すしくみ(演習)

第3回の演習問題の解答が書かれています。

初めて知った概念は超距離不等式でした。

距離空間  (X, d) 上の点  x, y, z \in X に対して、超距離不等式とは  d(x,z) \leq \max \{ d(x,y) , \ d(y,z) \} を言います。これは三角不等式よりも強い不等式です。

超距離不等式を満たす距離関数を満たす距離空間アルキメデス的な距離空間と言います。(例:  \mathbb{N} のべき集合上の距離、( \mathbb{Z} 上の)  p 進距離)

【第5回 - 2018年8月号】連続写像の概念

次のような順番で連続写像を定義しています。

(1) 通常の距離が入っている距離空間  \mathbb{R} について、関数  f: \mathbb{R} \to \mathbb{R} の連続性をε-δ式の議論で考える。
 
つまり、「  f a \in \mathbb{R} において連続であるとは、  f(a) の任意の  \varepsilon -近傍の逆像が  a のある  \delta -近傍になる」ことを確認する。ここで、  \varepsilon -近傍や  \delta -近傍が区間であることに注意。
 
(2) 開区間を、一般の近傍に拡張して考える。
 
(3) さらに一般化して、2つの位相空間  (X, \mathscr{O}_X) (Y, \mathscr{O}_Y) の間の写像が連続であることを、 X Y近傍を使って定義する。
 
(4) そして、近傍を開集合に拡張しても、連続性を特徴づけられることを確認する。

第1回から一貫して、近傍という概念を話の中心に据えて議論を展開していることがとても印象的です。

新しい位相空間の例

密着位相空間と離散位相空間
なぜこのような名前が付いているか、ようやくわかりました。
ゾルゲンフライ直線
実数全体の集合  \mathbb{R} にある位相を入れた空間。第1回の「十分大きな実数」の定義と関係していると直感しましたが、よく見ると違うもの?

ゾルゲンフライ直線の定義

この連載では、ゾルゲンフライ直線が毎回のように出てきます。備忘のため、その定義を書いておきます。

実数全体の集合を、ここでは  \mathbb{S} と書きます。

 p \in \mathbb{S} に対して、  \mathbb{S} の部分集合  A  p の近傍であることを次のように定義します:ある実数  q ( < p) が存在して、半開区間  ( q , p ]  A の部分集合になる。

これにより、  \mathbb{S} の各点に近傍フィルターが定まり、  \mathbb{S}位相空間になります。この位相空間ゾルゲンフライ直線と呼びます。

よって、  A \subset \mathbb{S} が開集合であることの必要十分条件は、「  p \in A のとき、ある正の数  r (p-r , p ] \subset A なるものが存在すること」です。

【第6回 - 2018年9月号】連続写像の概念(演習)

第5回で出てきた3つの演習問題の解答が書かれています。

非常に詳細に書かれていて、大学数学を初めて勉強する人にはとても参考になると思います。

特に、演習1の解答では、何を証明すべきかの考え方がわかりやすく書いてあります。

【第7回 - 2018年10月号】閉集合・境界・同相写像

前半は、閉集合について扱われています。

  • 触点・閉包・境界の定義
  • 閉集合の定義と開集合/閉集合の直感的イメージ
  • 位相空間(が定義された集合)  X の部分集合  A についての以下の4つの演算の関係
    • 補集合を取る演算  X \setminus A
    • 閉包を取る演算  \mathrm{Cl}(A)
    • 内部を取る演算  \mathrm{Int}(A)
    • 境界を取る演算  \mathrm{Bd}(A)

後半は、開写像を明確に意識させた上で、同相写像の定義が述べられています。

以下の文章は、写像 *1 の必要性を端的に示しています。

連続な全単射が開集合を開集合にうつすとは限らないという事実は,連続な全単射といえども,位相空間の構造を完全に保つわけではないことを意味します.群やベクトル空間などの代数系においては,準同型で全単射であれば同型写像になるのですが,位相空間の場合は,そうなっていません.
(『数学セミナー 2018年10月号』73ページより引用)

最後は位相不変量が説明されていて、位相不変量には“精緻さや粗さ”があることがほのめかされています。

【第8回 - 2018年11月号】閉集合・境界・同相写像(演習)

第7回の演習問題3問に加えて、写像の連続性に関する例題が挙げられています。

【第9回 - 2018年12月号】基本近傍系・開基・稠密性

第8回までで、位相空間を定義する方法として、開集合系や閉集合系などが説明されました。

今回はこれらに加えて、基本近傍系と開基による定義が説明されています。

これらすべての定義の方法が同値であるというのが、個人的にはとても美しいと感じます。

以下、個人的にあまり知らなかったことのメモです。

  • 第1可算公理を満たす:各点が可算な基本近傍系を持つ。
  • 第2可算公理を満たす:可算な開基を持つ。
    • ユークリッド空間は第2可算公理を満たす。
    • ゾルゲンフライ直線は第1可算公理も第2可算公理もどちらも満たさない。
  • 可分:可算な稠密部分集合を持つ。
  • これらはユークリッド空間の特徴の一部を抽出したものと言える。

【第10回 - 2019年1月号】基本近傍系・開基・稠密性(演習)

第7回の演習問題3問に加えて、以下の2つが書かれています。

  • 集合  X の任意の部分集合族  \mathscr{A} によって生成される位相  \mathscr{O}_{\mathscr{A}}
    •  \mathscr{O}_{\mathscr{A}} \mathscr{A} のメンバーをすべて開集合とするために必要なぎりぎり最小限の開集合のみからなる。(P68より引用)
  • 1つの集合に対して、入れる位相によって可分性は異なる。
    • 本文での例: \mathbb{R} \setminus \mathbb{Q} に入れる3種類の位相

【第11回 - 2019年2月号】点と点を区別する:分離公理

5つの分離公理 \mathrm{T}_i 分離公理」  (i=0,1,2,3,4) を中心に話が進められています。

ちなみに、  \mathrm{T}_2 分離公理を満たす位相空間ハウスドルフ空間と呼ばれています。 *2

各種分離公理が成り立たない例、位相の強弱、直積空間への分離公理の継承について、イメージ図や証明を使ってわかりやすく説明されています。

位相空間フィルターを使った点列の収束の定義は、個人的に初めて知りました。
連続性の性質を含めて、距離空間での定義の自然な拡張になっています。

これまでは分離公理をほとんど意識せずに数学をしてきたので、以下の言葉がとても勉強になりました。

解析学位相幾何学で出会う位相空間の多くはハウスドルフ空間なのですから,ハウスドルフでない空間が一見奇妙に見えるのも無理はありません.しかし,ハウスドルフ空間でない位相空間にも代数幾何学におけるザリスキ位相や,コンピュータ・プログラムの理論におけるスコット位相など,応用上重要な例があります.(67ページから引用)

【第12回 - 2019年3月号】点と点を区別する:分離公理(演習)

第11回の演習問題の解答に加えて、無限個の空間の直積への位相の定め方が書かれています。

直積空間は元の位相空間たちが満たす分離公理を保存しますが、可算性・可分性は必ずしも保存されないようです。

【第13回 - 2019年4月号】離れていることとつながっていること

冒頭は、これまでの連載について振り返りと今後の見通しです。
連載中で漏れていたという、内点の定義も書かれています。

今回のテーマは連結性です。

まずは、離れている(不連結である)という概念について観察をしてから、連結であることの定義をしています。

私が学生時代に教科書に指定された 『集合・位相入門』(松坂和夫) では、連結であることの定義がいきなり書かれていて理解が難しかった記憶があるので、今回のような説明はとてもわかりやすく感じました。

そして、以下の内容について説明されています。

  • 連結な集合の性質
  • 同相写像により連結性が保たれること(位相不変性)
  • 実数直線  \mathbb{R}^1区間、半直線の連結性
  • 弧状連結
    • 弧状連結⇒連結は成り立つが、逆が成り立たないことに注意。
  • 連結成分

最後に、微積分学に出てくる中間値の定理が、より一般化された主張から導かれています。 *3

連結性の証明が難しいと感じていた理由

連結であることは「~を満たす開集合が存在しないこと」と特徴づけられます。

連結性の証明は難しいと思っていましたが、「存在しないこと」を示すことに困難を感じていたのかもしれません。

【第14回 - 2019年5月号】離れていることとつながっていること(演習)

前半は第13回の演習問題の解答です。

後半は直積空間の連結性/弧状連結性についてです。
(定理:2つの連結な位相空間の直積は連結である。逆も成り立つ。)

【第15回 - 2019年6月号】コンパクト性をめぐって

この連載では、フィルターを使って位相空間のいろいろな概念を説明することが多くあります。

今回のテーマのコンパクト性でも、まずフィルターを使った定義をして、いくつかの同値な条件を導いています。

同値な条件の中には、「任意の開被覆が有限部分被覆を持つ」ことが含まれます。

私がコンパクト性を習ったときは有限開被覆で定義されましたが、「なぜそのように定義するか?」を疑問に思っていました。

フィルターを使った議論でスタートすることで、その疑問が自然と解消できたように感じました。

また、ボルツァーノ・ワイエルストラスの定理や最大値原理といった微分積分学における基本的な定理との関係もよくわかります。

【第16回 - 2019年7月号】コンパクト性をめぐって(演習)

第15回の3つの演習問題の解答が書かれています。

主なテーマは有限交叉性、準フィルター、コンパクトなハウスドルフ空間の性質です。

【第17回 - 2019年8月号】正規空間とウリゾーンの補題

第11回に出てきた正規空間 *4 が満たすウリゾーンの補題の証明と適用例について書かれています。

正規空間の特徴を「分離できる」という言葉で捉えるとすると、0と1のように白黒きっちり分けると考えがちです。
ウリゾーンの補題の主張を見たときの私の第一印象は、「グラデーションのように分離できる」ということでした。

ウリゾーンの補題の適用例として、連載全体を通しておなじみの、ゾルゲンフライさんが出てきます。
この記事では、ゾルゲンフライ直線の直積空間であるゾルゲンフライ平面が正規空間でないことが示されています。

ちなみに、松坂和夫『集合・位相入門』のを見てみると、「正規かつ第2可算公理を満たす位相空間は、台集合に適当な距離を入れた距離空間と一致する」という距離づけ定理の証明で、ウリゾーンの補題が使われています。(第6章 §6)

*1:本文では、「開集合であるという性質を前向きに保つ写像」と説明されています。

*2:他に、正則空間(  \mathrm{T}_1 かつ  \mathrm{T}_3 )、正規空間(  \mathrm{T}_1 かつ  \mathrm{T}_4 )もあります。

*3:中間値の定理は、閉区間上の実数値連続関数についての主張である。一般化された主張は、閉区間の代わりに連結な位相空間について述べられている。

*4:本文中の言葉を借りると、正規空間は《空間の各点  p について  \{ p \}閉集合である》かつ《お互いに交わりのないふたつの閉集合を交わりのない開集合のペアで分離できる》空間である。前者は  \mathrm{T}_1 分離公理、後者は  \mathrm{T}_4 分離公理のこと。