『数学セミナー 2022年10月号』読書メモ
『数学セミナー 2022年10月号』の読書メモです。
特集「ランダムウォークの進む道」
今回の特集は「ランダムウォークの進む道」です。
ランダムウォークというと、酔歩とも呼ばれるようにフラフラしているイメージがあるにもかかわらず、「進む道」というフラフラ感が少ない言葉がタイトルに入っているのが気に入りました。
確率入門としてのランダムウォーク
筆者の先生に当たる方が「ランダムウォークだけを題材に確率論入門が書けるはずだ」 (P8より引用)とおっしゃっていたようで、実際にランダムウォークから確率論の基本的事項を試みているのがこの記事です。
個人的には、非常にわかりやすく感じました。
特に、確率論と測度論の関係を自然に理解することができたと感じています。
区間の“長さ”の定義が必要だというところから、自然に測度論が持ち出されているのが見事です!
ランダムウォークの確率計算トリック
ギャンブラーの破産問題やベルトランの投票問題を題材に、2~3次元のランダムウォークが関係する確率計算を説明しています。
碁盤の目の最短経路に類する問題に関係させており、『数学ガール』シリーズでたまに扱われる話題を想起させられました。
確率計算について、
を使って説明しているのが非常にわかりやすく感じました。
この次の記事である「ランダムウォークの確率解析」は、この記事の延長上にある話題です。
フラクタルの中を歩いてみると?~フラクタル上のランダムウォーク
具体的には、2次元、3次元、4次元、…のシェルピンスキーのギャスケットの中を歩くと、出発地点に再び戻ってくる確率は1か?1より小さいか?を考察しています。
(確率が1のときは再帰的、そうでないときは非再帰的といいます。)
2次元のシェルピンスキーのギャスケットは下のような図です。(Wikimediaより引用)
フラクタルについては、フラクタル次元が定義されますが、「スペクトル次元」も定義され、これが再帰性に関係しているのではないかと考えられているようです。
「フラクタルを粗く見る」という見方の説明を読んでいると、σ-加法性が裏にあることが見えてきて、確率と測度論が密接に関係することが改めて確認できました。
マルコフ連鎖と混合時間~カードシャッフルを例にして
「トランプをどれくらいシャッフルすると、よく混ざった状態になるか?」を考えるのがこの記事です。
マルコフ連鎖と確率行列を使って、よく混ざった状態なるために必要なシャッフルの回数を“計算”しています。
トランプで遊ぶときは、これを参考にしてシャッフルしてみようと思います。
離散群とランダムウォーク
この記事のテーマは、有限生成の自由群の生成元 から、重複を許してランダムに 個選んで掛け合わせて得られる語( などをキャンセルした後の生成元の個数)の長さの期待値についてです。
キーになるのはランプライター群と呼ばれる群であると説明されています。
群の半直積になじみがなく、記事の内容を読み解くのは難しかったのですが、ランプライターの動きを想像するのが楽しい記事でした。
無限グラフ上のランダムウォークと離散幾何
無限グラフの頂点をランダムウォークするときの再帰性を扱った記事です。
記事の中には、測地線など幾何学で出てくる概念や、ラプラシアンや熱方程式(熱核)のように関数解析で出てくる概念など、グラフ理論とは関係なさそうなことがたくさん出てきます。
このような概念を導入することで、グラフ理論に関数解析の手法を適用できるようになったということのようです。
自分にとっては、グラフ理論と関数解析が非常に離れたものだと思っていたので、すごい飛び道具のように思えました。
両者の関係を一度深掘りしてみたいテーマです。
エレガントな回答を求む ― 解答 第2問
偶然なのかどうかわかりませんが、解答2問目はランダムウォークに関係する問題になっています。
数の世界の千一夜 第7回
高木貞治が構築した類体論について扱われています。
この記事を読んだのは、MATH POWER 2022の直後であり、NHKの笑わない数学の最終回を見終わった後だったこともあり、以下のツイートのような感想を持ちました。
#数学セミナー 2022年10月号の連載「数の世界の千一夜」第7回。 #Mathpower の関さんの講演にあった類体論や、昨日の #笑わない数学 のテーマだったガロア理論も出てくる。そして、終盤では個人的に興味があるラングランズプログラムが触れられている。ここ1週間で触れた数学の総まとめのような感じ。
— 7931 (@wed7931) 2022年9月28日