特集「すごい定義」~『数学セミナー 2018年11月号』読書メモ
『数学セミナー 2018年11月号』の特集は「すごい定義」です。
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2018/10/12
- メディア: 雑誌
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数学で登場するいろいろな概念とそれを規定する定義について、生み出される歴史や具体例からの一般化の側面から説明されています。
関数の連続性
関数の連続性は、現在はε-δ式で厳密性をもって定義されます。
その厳密性が、歴史的にどのように導かれたかについて説明されています。
ポイントは次の2点です。
- そもそも、関数はどのように定義されてきたか?
- 中間値の定理がどのように扱われてきたか?
後半に出てくる次の言葉が非常に印象的です。
ボルツァーノ以前の解析学は等式の数学が支配的であったが,彼とコーシー以降は不等式のアートが支配的になっていたというのは言い過ぎであろうか.(『数学セミナー 2018年11月号』12ページより)
行列の概念をめぐって
行列の定義に始まり、一次方程式との関係や線形写像の表現行列へと話が進んでいきます。
図像的表示に依拠する 型行列 を、 個の数 の順序付けられた組 とみなす見方は、改めて指摘されるとなるほどと感じました。
後半は、群や環などの代数系を具体的に表現する手段としての行列についてのお話です。
具体的な例として4元数が出てきて、量子力学との関係が簡単に述べられています。
自分が現在勉強中の表現論 *1 との関係として、次のことが書かれていて気になっています。
イデアルの秘密に迫る
前半は環 のイデアル の定義が、剰余環 の乗法の定義にどのように”効いて”いるかが説明されています。
後半はイデアルが生まれた歴史的経緯について、次の2つの観点から述べられています。
多様体
導入では、微分積分学の基本定理と多様体上で定義された微分形式が満たす一般化されたストークスの定理の関係がざっと説明されています。
その後、球面とトーラスを 座標と極座標の2種類で表示できることを計算し、多様体の定義(後述)が(1)~(3)で定められているのが自然であることが書かれています。個人的には、非常に納得感がある説明でした。
定義 位相空間 が次の条件(1)~(3)を満たすとき、 を 次元 級微分可能多様体という:
(1) はハウスドルフ位相空間である。
(2) の任意の点 に対して、 を含む開集合 と1対1写像 が存在して、 は から への同相写像となる。
(3) のとき、 が の開集合間の 級写像である。
1936年の奇跡 ― チューリング機械の誕生
計算とは何か、そして計算可能であるとはどういうことかから始まります。
計算可能であることについて、再帰的関数、λ計算、チューリング機械の3つの側面から説明されています。この3つはすべて同値であることがわかります。
計算可能であることの定義として、チャーチ-チューリングの提唱「計算可能であるとは、チューリング機械で計算可能なことである」が述べられています。(「提唱」という言葉が使われていることに注意。)
後半では、チューリング機械で計算可能であることであるとはどういうことかを掘り下げています。
ポイントになるのは次の点です。
- (1) 入力する値によっては、出力を持たない場合がありうる関数(部分関数)
- 例1:計算プログラムが停止せずに出力がない。
- 例2:計算プログラム内の再帰関数が同じ値を無限に繰り返し出力し続ける。
- (2) 計算可能な関数は自然数でコード化できる。
(2)については、『数学ガール/ゲーデルの不完全性定理』に出てくるゲーデル数と関係があるのではないかと思っています。(正確には理解できていません…)
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また、計算機という実体がない時代に、チューリング機械という現在の計算機のベースとなる考え方が出されているのも驚きです。
これについては、『数学する身体』の第二章にも書かれています。
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