『数学セミナー 2022年9月号』読書メモ
2019年前半ころまで、月刊誌『数学セミナー』の読書メモをこのブログでまとめていました。
なんとなく気が向いたので、約3年ぶりにこの読書メモを再開してみます。
今回は、2022年9月号です。
特集「積分のいろいろな顔」
積分に関する歴史的な側面
「放物線の求積」では、ギリシャ数学での放物線の求積(放物線と直線で囲まれた部分の面積の計算)について説明されています。
“天秤”に関する話が出てきて、どこかで見たことがあると思っていたら、オンライン数学デーで説明されていたものでした。
ギリシャ数学に関する次の説明はなるほどと思いました。
アルキメデスは個別の図形を超越した抽象的な量を示す言語,つまり記号法を持たなかったからこそ,個々の図形に関心を寄せ,個別の方法を巧妙に当てはめ,多くの見事な結果を生んでいった. (P21より引用)
また、カヴァリエリの原理についての「従来の線分の総和による求積から、比を用いた比較による求積ができるようにした」という説明が印象的です。
いつもと違うルベーグ積分の見方
「リーマン積分とヘンストック積分」では、「現在はルベーグ積分の前にリーマン積分を勉強するのが一般的だが、リーマン積分である必要があるのか?」という考えたこともない観点が出てきます。
それがヘンストック積分で、分割の“幅”の評価の仕方が違うもののリーマン積分とほぼ同様に定義されます。
ヘンストック積分には次のような性質があり、ヘンストック可積分性はリーマン可積分性とルベーグ可積分性を包含するという主張です。
一方で、ヘンストック積分には以下のようなデメリットがあります。(これはリーマン積分でも一部同じ?)
実際に、リーマン積分の学習をヘンストック積分で置き換えられないかという DUMP-THE-RIEMANN-INTEGRAL-PROJECT (D.R.I.P.) というものがあるようです。
「ルベーグ積分」では、「ルベーグ積分の教程について、測度の構成定理に時間を要し、ルベーグ積分の定義に至るまでに息切れしてしまうケースが見受けられる」という主張があり、自分もまさにそうだったと思いました。
筆者は、測度の構成定理を後回しにした教科書として『ルベーグ積分入門―使うための理論と演習』を書いたということで、ルベーグ積分の学習に苦しんだ経験者として読んでみようと思いました。
ちなみに、私は『ルベーグ積分講義』を読んで、ようやくルベーグ積分が理解できたと思っています。数学科を卒業して約15年後のことです。
そのときの読書メモはこちらです。
「線型汎関数としての積分」では、線形汎関数を用いたダニエルの方法によりルベーグ積分を“取り出す”ことをしていて、ルベーグ積分の別の見方を提示しています。(キーワード:線形束、集合環)
可積分関数 から可積分集合 の特性関数を取り出す「押し上げ」の操作 をグラフで表したものが、個人的にはとてもおもしろかったです。
コラッツ予想の楽しみ方/ラジオ番組『たまむすび』出演顛末記
今号で最も楽しみにしていた記事です。
コラッツ予想と『たまむすび』の関係はこちらからどうぞ。
www.tbsradio.jp
www.tbsradio.jp
ラジオ出演の裏側だけでなく、コラッツ予想の数学的な捉え方(整数論だけでなく、力学系やテレンス・タオの最新の結果など)も書かれていて、とても勉強になりました。
せいすうたん(第2部)[第6回]/シングマスター予想
シングマスター予想は、パスカルの三角形に含まれる整数の個数の上限に関する予想です。
パスカルの三角形に含まれる2以上の整数は“それほど多くない”ということに初めて気付かされました。(言われてみると当たり前)
目で視る曲線と曲面[第6回]/曲面のパラメータ表示
球面の2種類のパラメータ表示 と について、球面上の 曲線と 曲線が異なることがわかるように示されている図が掲載されています。
前者の 曲線と 曲線はそれぞれ緯線と経線になります。
組合せ論彷徨[第6回]/対称群の表の組合せ論(1)
学生時代にうっすらと聞いていた「対称群とヤング図形(組合せ論)とKdV方程式(可積分系)」の関係への言及がされています。
具体的には、カッツ-ムーディリー環の基本表現の最高ウェイトの考察などが書かれています。
数学応用のクラフトビール
千葉大学での数学を応用したクラフトビール作りについて書かれています。
“味”や“香り”を考えるのに数値計算を使うのは容易に想像できますが、代数構造の1つである束を使った形式概念分析を用いるというのがとても新鮮に感じました。
数セミメディアガイド/三歩進んで二歩さがった先に
『子どもの算数,なんでそうなる?』 の書評です。
我が家にも中学生と小学生の息子がいますが、算数のテストの間違えたところについて話を聞いてみると、勉強になることがたくさんあります。
テストの○×だけで一喜一憂するのではなく、しっかりと話を聞いてフォローすることが大事だと思わされます。
2021年の数学活動を振り返る
この記事は 日曜数学 Advent Calendar 2021 の18日目の記事です。
大学数学科を卒業して20年近く経っていますが、今でも趣味として数学をやっています。
特定の分野を深く勉強するというよりも、そのときの興味や気分で寄り道やつまみ食いをしながら数学を楽しんでいます。
TwitterやFacebookに流れてくる数学関係の話題に触れたり、YouTubeのコンテンツを見たりするのは、日常生活の一部になっています。
そして、これ以外にもいろいろな形で数学に触れています。
昨年に引き続き、2021年はどんな数学活動をしてきたかを振り返ってみたいと思います。
※過去の振り返りはこちらです。 → 2018年 / 2019年 / 2020年
【目次】
2020年から継続していること
『数学セミナー』の定期購読は5年目に
2017年4月から続けている『数学セミナー』の定期購読は5年目に入りました。
毎月の特集で様々なテーマを自分の意志に関係なく与えてくれるので、特定の分野に強い興味を持たないスタイルの自分にはちょうどいい刺激になります。
1ヶ月かけてゆっくり読み終えたタイミングで最新号が届くという読書サイクルがすっかり定着しています。
定期購読から4年半が経過した9月には、本棚の1ブロック分が数学セミナーだけで埋まり、充実感に浸っています。
数学・物理関係の本を今年もたくさん購入
これまでは紙の本ばかり買っていましたが、今年は電子書籍も何冊か買いました。
下の画像に出ている本はその一部です。(ブクログからのスクリーンショット)
ちなみに、上の画像の右下端にあるのは「岩波数学辞典」です。
ブックオフでの数学書探しのときにたまたま見つけました。
第3版(1985年発行)で最新版ではありませんが、自宅の本棚に岩波数学辞典を並べることができて、満足しています。
数学ガールシリーズの執筆段階でのレビュー
これは継続しているというよりも、著者の結城浩さんのおかげで継続させていただいているものです。
2018年にレビューに参加させていただいてから、今もお声掛けをいただいて、とても感謝しています。
2021年は、シリーズとして初めて物理を扱った『数学ガールの物理ノート/ニュートン力学』のレビューを担当しました。
ニュートンの運動方程式、力学的エネルギー、万有引力の法則など、高校物理で学習したものの、すっきり理解できないままでした。
これらのテーマについて、この本のレビューを通して、「そういうことか!」と感じたことがたくさんあり、とても勉強になりました。
また、現在は『数学ガールの秘密ノート/図形の証明』(2022年2月刊行予定)のレビュー中です。
この本で私がレビューを担当する本は7冊目になります。
2021年に新しく始めたこと
物理に関するオンラインセミナーの受講
昨年までの数学活動のまとめを読むと、物理に対する興味がだんだん強くなってきたことがわかります。
- 2018年:表現論と物理の関係が気になり始めた。
- 2019年:ラングランズプログラムを知り、場の量子論と表現論の関係に興味が出てきた。
- 2020年:ブルーバックスの相対論と量子論の本を読んで、物理への興味がより強くなる。
そんな中、量子論に関するセミナーをオンラインで受講できることを知り、4月から8月まで隔週で「数学的な基本原理から量子論を学ぶ」を受講しました。
学生のときに勉強していたリー群の表現論と量子論が関係しているということはなんとなく知っていましたが、それを身をもって体感することができました。線形代数が大活躍していたのも印象的です。
そして、物理での数学の扱い方や記号の使い方などを知ることができ、とても新鮮でした。
さらに、10月からは熱力学のセミナーを受講しています。
量子論とは違った数学の活躍のしかたがあるのではないかと、とても楽しみにしながら勉強しています。
学生時代のように、Zoomで板書を見ながらノートを取って、疑問に思うことを質問するということを楽しんでいます。
数学関係の本の”インデックス”の作成
いろいろな数学関係の本を持っていると、どの本に何が書いてあるかがわからなくなってきます。
「代数学」や「位相幾何学」のようなタイトルの本だと、何が書いてあるかはわかりやすいのですが、1冊の本にいろいろなテーマが書かれていると、それを把握することが難しくなります。
例えば、『数学セミナー 2019年12月号』の特集「私が惹かれるこの概念」では、グラフ理論/ホモロジー/力学系/確率論/熱力学などがコンパクトにまとめられています。
『数学ガール/ポアンカレ予想』では、タイトルから推測できるように位相空間や幾何学が扱われています。幾何学の中でも、一筆書き問題/非ユークリッド幾何学/基本群/驚異の定理などが扱われています。また、微分方程式/フーリエ級数についても書かれています。
たくさんの本を持っているのに、どの本にどんなテーマのことが書いてあるかがパッとわからないのはもったいないので、それが調べられるようにインデックスを作ることにしました。
(2020年の振り返りの「2021年にやりたいこと」に書いていました)
まずは、『数学ガール』シリーズの各巻・各章に書かれているテーマやキーワードを抜き出し、いったん完了しました。
今は『数学セミナー』の各号の特集記事のテーマをまとめているところです。
キーワードを抜き出す作業はおもしろいのですが、それをどのように整理すると使い勝手がよさそうかはまだまだ模索中です。
空いている時間で少しずつ進めていこうと思います。
2022年にやりたいこと
2022年は、これまでよりも積極的に勉強したことをアウトプットしていきたいと思っています。
一昨年までは勉強したことをまとめてこのブログで公開していたのですが、昨年以降はTwitterで簡単にツイートするにとどまっています。
自分なりに資料を作ってみるか、ブログにまとめて公開するか、思い切って日曜数学会のような場で発表するか。
一昨年までに立ち返って、ある程度まとまったアウトプットをしてきたいです。
2022年もこれまでに書いてきたことを継続しながら、自分のペースで数学を楽しんでいこうと思います。
2020年の数学活動を振り返る
2020年も趣味で数学をやってきました。
特定の分野を集中して勉強するというよりも、興味や関心の赴くままにいろんな分野の数学をつまみ食いするスタイルで活動しています。
2019年に引き続き、どんな数学活動をしてきたかを振り返ってみます。
【目次】
物理学への興味がより強くなってきた
前年の振り返りで、「表現論から物理に興味が移ってきた」と書きました。
2020年は物理への興味がより強くなってきました。
松浦壮さんの以下の2冊の本を読んだことがきっかけです。
数式を出すことをいとわずに書かれており、数学に慣れた自分にとって非常に読みやすい本でした。
『数学セミナー』の定期購読は4年目に入った
2017年4月から続けている『数学セミナー』の定期購読は4年目に入りました。
毎月の特集で様々なテーマを自分の意志に関係なく与えてくれるので、『数学セミナー』を毎号読むことは、いろいろな分野をつまみ食いするスタイルにはうってつけです。
2020年の特集で最も興味深かったのは、9月号の「新型コロナウイルスと闘うために数学にできること」でした。
『数学セミナー』の定期購読は、自分の数学活動のペースメーカーでもあるので、今後も続けていく予定です。
『数学ガールの秘密ノート』シリーズのレビューを担当した
結城浩さんの『数学ガールの秘密ノート』シリーズのレビューを2018年から担当させていただいています。
2020年も次の2冊のレビューを担当させていただきました。
『数学ガールの秘密ノート/確率の冒険』は、私が苦手とする確率(特に、条件付き確率)が扱われており、レビューに並行して自分のための勉強にもなりました。
また、病気の検査における陽性・偽陽性が扱われており、新型コロナウイルス感染拡大の状況下でリアルタイムに関心を持って読むこともできました。
2021年も同シリーズの次回作のレビューを担当させていただくことになっています。
今年もたくさんの数学関係の本を買った
自宅で好きなタイミングでいろいろな分野の数学書を参照できるように、数学関係の本を買い集めています。
2020年はブックオフのオンラインストアで箱買いをしたり、数年ぶりに明倫館書店に行くなどして、たくさんの数学関係の本を買いました。
2020年に買った本の一部を並べてみました。
2021年にやりたいこと
2年ほど休止している勉強したことをまとめたブログの再開や「自分用インデックス」の作成など、自分が勉強した数学を記録する活動を始めようと思っています。(今はTwitterに都度書いています)
限られた時間でどうやっていくかを考えていく予定です。
ということで、2021年も趣味の一環として、のんびりと数学をやっていこうと思っています。
2019年の数学活動を振り返る。
大学院数学科卒業後10年以上経ってから、趣味で数学を再開して5年ほど。
今年もいろいろな数学に関する活動をしてきました。
昨年に続いて、今年も数学活動の振り返りをします。
なお、昨年の振り返りはこちらです: 2018年の数学活動を振り返る。 - 7931のあたまんなか
【目次】
- 表現論から物理に興味が移ってきた。
- 『数学セミナー』を毎号通読した。
- 勉強内容まとめブログは休止中
- 『数学ガールの秘密ノート』のレビューを担当した。
- 近所に数学仲間ができた。
- 来年はまとめブログを再開したい。
表現論から物理に興味が移ってきた。
昨年までは学生時代の専門だった表現論を中心として数学を勉強してきました。
今年は表現論に関連する内容が書かれている『数学の大統一に挑む』を読んで、場の量子論などの物理学と表現論の関係に興味を持ち始めました。
数学的に厳密に書かれた数学書だけでなく、ある程度の難しさの数学・物理を易しく説明してくれる本も、手に取るようになりました。
例えば、次のような本です。
『数学セミナー』を毎号通読した。
2017年4月号から『数学セミナー』を毎号買っています。
いろいろな分野の数学をランダムに学ぶ手段として、『数学セミナー』を毎号通読しています。
見た目では全く違う数学分野でも、根底ではつながりを持っていることがわかり、知的好奇心をくすぐられます!
勉強内容まとめブログは休止中
今年前半までは、『数学セミナー』の特集記事をはじめとした、勉強した数学をブログにまとめていましたが、現在は時間がとれず今はお休み中です。
その代わりに、Twitterにメモするようにしています。
Twilogはこちらから。 7931(@wed7931) - Twilog
なお、2019年にまとめたブログ記事はこちらからどうぞ。 2019-01-01から1年間の記事一覧 - 7931のあたまんなか
『数学ガールの秘密ノート』のレビューを担当した。
昨年は、結城浩さんの『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』のレビューを担当しました。
今年は、次の2冊の本のレビューをさせていただきました。
来年も1冊のレビューを担当することが決まりました。
数学だけでなく文章表現も学べる貴重な機会なので、とても楽しみです。
近所に数学仲間ができた。
息子の友達のおじいちゃんが数学好きであることがわかり、メールのやりとりや本の貸し出しを通じて、数学に関する交流が始まりました。
TwitterやFacebookで交流する方もいますが、実際に顔を合わせて数学を話せる人は少ないので、とても大事な関係だと思っています。
来年はまとめブログを再開したい。
来年も、広く浅くマイペースに数学を楽しんでいこうと思います。
そして、勉強した内容をまとめてブログで公開する活動の再開が目標です。肩肘張らずにどのようにやっていくかが課題です。
連載「組合せ数学の雑記帳」~『数学セミナー』読書メモ
『数学セミナー』では2019年4月から、連載「組合せ数学の雑記帳」(八森正泰)が始まりました。
- 作者:
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2019/03/12
- メディア: 雑誌
この記事では、連載の内容のメモを毎号追記していきます。
私は学生時代に組合せ論に興味を持った時期があり、この連載はとても楽しみです。 *1
【第1回 - 2019年4月号】超平面の切り分ける領域の個数はいくつ?
d 次元空間を n 枚の超平面で切り分けるときにできる領域の個数 を考えるのが今回のテーマです。
d=3 の場合が、2019年度の東京工業大学の入試問題で扱われています。
いくつかの専門用語が出てきますが、高校生でも十分理解できる内容だと思います。
頭の中で超平面を少しずつ動かすイメージができて楽しい記事です。
キーワード
- 空間上のいくつかの点が一般の位置にある/縮退している
- 超平面:d-1 次元のアフィン部分空間
- 直線配置/平面配置/超平面配置(それぞれ d=2 / d=3 / 一般の d の場合)
- シュレフリの式: を d と n で書いた式
【第2回 - 2019年5月号】包除原理,半順序集合,そして再び超平面配置
高校数学でベン図とともに出てくる を一般化した公式(包除原理)からスタートします。
包除原理を部分集合どうしの包含関係(半順序関係の一例)を使って見直し、メビウスの反転公式を導きます。
最後に、前回の超平面配置について再考します。超平面( d-1 次元アフィン部分空間)とその交わりがなす頂点などのアフィン部分空間を、半順序集合の元と見ることになります。
【第3回 - 2019年6月号】マトロイドと有向マトロイド
マトロイドとは、有限集合上の集合族で、ある3つの条件を満たすものを言います。
この条件を読むと、「集合に1点を加える(または除く)」という操作がポイントのようです。
マトロイドの2つの集合が連続変形できるとか、順序関係で極大な要素は基底と呼ばれるとか、双対を持つとか、集合・位相・線形代数でよく出てくる用語が記事の中に登場します。
実際、マトロイドはベクトル空間の一次独立性の抽象化と説明されることが多いようです。
記事を慎重に読み進めていくと、この説明は納得できました。
そして、マトロイドの構造に符号の情報を追加したものが有向マトロイドと呼ばれ、この連載の第1~2回で出てきた超平面配置につながっていると説明されています。
【第4回 - 2019年7月号】グラフのON/OFFゲームと計算量の話
グラフ *2 上の頂点をランプに見立てて、「一定のルールに従ってON/OFFすることでランプをすべて消す」というON/OFFゲームが扱われています。
与えられたグラフに対して、「どのような開始状態でも、最終的にランプをすべて消すことができるか?」が今回の主要な問題です。
この問題に対する答えの導き方が記事の前半で説明されています。この説明は難しい数学を使うことなく、ある意味で数学パズルのように理解できます。
そこから考察を進めると、2元体 上の線形代数に帰着されることが後半に書かれています。
これは『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』の研究問題に出てくる隣接行列に関係するようです。 *3 この関係については、個人的に興味があるので、手を動かして計算してみたいテーマです。
記事の中盤では、ON/OFF問題を例とした計算量とP≠NP問題について書かれています。PとNPの対になるcoNPという概念もあるようです。
最後には、前回記事のマトロイドとの関係が言及されています。
今回までで、超平面配置/マトロイド/ON/OFF問題が深いところでそれぞれが関係しあっていることが示唆されています。今後が楽しみです!
【第5回 - 2019年8月号】曲がったものをまっすぐにすること
第3回で出てきた超平面配置から考えを進めるところから始まります。
手書きで図を書いてみました。
この図にある伸張可能性問題の計算量を考えるのが今回の主題です。
使う道具は3SATと呼ばれるNP完全問題。
…私には難しくて、中盤以降は読み解けませんでした。残念。
連載「やわらかいイデアの話」 ~ 『数学セミナー』読書メモ
『数学セミナー』2018年4月号から、藤田博司さんによる「やわらかいイデアのはなし」が連載されています。
数学セミナー2018年4月号 通巻 678号 なぜ数学を学ぶのか
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2018/03/12
- メディア: 雑誌
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位相空間の初歩の話をする連載です。
各月の内容を自分なりにまとめるのがこの記事の目的です。
なお、偶数月号で講義、奇数月号で前月の演習問題の解説をするスタイルの予定とのことです。
- 私の位相空間の思い出
- 【第1回 - 2018年4月号】大きい数・近い点・近傍フィルター
- 【第2回 - 2018年5月号】大きい数・近い点・近傍フィルター(演習)
- 【第3回 - 2018年6月号】近傍フィルターを生み出すしくみ ― 距離関数と開集合系
- 【第4回 - 2018年7月号】近傍フィルターを生み出すしくみ(演習)
- 【第5回 - 2018年8月号】連続写像の概念
- 【第6回 - 2018年9月号】連続写像の概念(演習)
- 【第7回 - 2018年10月号】閉集合・境界・同相写像
- 【第8回 - 2018年11月号】閉集合・境界・同相写像(演習)
- 【第9回 - 2018年12月号】基本近傍系・開基・稠密性
- 【第10回 - 2019年1月号】基本近傍系・開基・稠密性(演習)
- 【第11回 - 2019年2月号】点と点を区別する:分離公理
- 【第12回 - 2019年3月号】点と点を区別する:分離公理(演習)
- 【第13回 - 2019年4月号】離れていることとつながっていること
- 【第14回 - 2019年5月号】離れていることとつながっていること(演習)
- 【第15回 - 2019年6月号】コンパクト性をめぐって
- 【第16回 - 2019年7月号】コンパクト性をめぐって(演習)
- 【第17回 - 2019年8月号】正規空間とウリゾーンの補題
私の位相空間の思い出
連載の内容まとめの前に、私にとっての位相空間の思い出を書いておきます。
位相空間を初めて知ったのは大学1年の数学科の講義で、教科書は『集合・位相入門』(松坂和夫著)が指定されました。
- 作者: 松坂和夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1968/06/10
- メディア: 単行本
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位相空間の特徴づけとして、開集合系の公理から入りました。
その後、閉集合や近傍などの概念、写像の連続性、点列の収束、距離空間、コンパクト性などと進んだ記憶があります。
ユークリッド空間 での各概念のイメージはおおよそつかめましたが、一般の位相空間ではイメージができないまま卒業したという形です。
【第1回 - 2018年4月号】大きい数・近い点・近傍フィルター
まずは、集合の基本についての説明です。
次は、「十分大きな実数」「十分近い点」という一見すると不思議な言葉について考え、フィルターや近傍フィルターの定義が説明されます。
この近傍フィルターを手がかりに、位相について学ぼうということです。
最初に書いた開集合系とは異なる導入なので、今後の展開が楽しみです。
【第2回 - 2018年5月号】大きい数・近い点・近傍フィルター(演習)
第1回で出された4つの演習問題の解説です。
演習3の(5)の証明は私も試みましたが、議論が煩雑になり混乱してしまいました。本文中の記号でいうと、 を証明中で混乱して使ってしまったのが原因でした。
なお、本筋からずれますが、本文中の次の言葉が印象的でした。
大学の数学に初めて触れる人の中には,こうした「正解がひとつでない状況」に戸惑う人も多いようです。
(『数学セミナー 2018年5月号』46ページより引用)
本文中の例とは異なりますが、「ε-δ式の証明で具体的にδを与えるときに複数の候補からどれを選ぶかで悩む」というようなことです。
私にも同じ経験があるので、この気持ちはよ~くわかります。
【第3回 - 2018年6月号】近傍フィルターを生み出すしくみ ― 距離関数と開集合系
これまでに導入された近傍フィルターと今回導入される開集合系が同等であることをが説明されています。
近傍フィルターと開集合系
- 近傍フィルターの性質を吟味して、開集合を定義している。
- 開集合の性質を吟味して、開集合系を定義している。
- 近傍フィルターを定めることと開集合系を定めることは同等であることを示し、位相空間を定義している。
【第4回 - 2018年7月号】近傍フィルターを生み出すしくみ(演習)
第3回の演習問題の解答が書かれています。
初めて知った概念は超距離不等式でした。
距離空間 上の点 に対して、超距離不等式とは を言います。これは三角不等式よりも強い不等式です。
超距離不等式を満たす距離関数を満たす距離空間を非アルキメデス的な距離空間と言います。(例: のべき集合上の距離、( 上の) 進距離)
【第5回 - 2018年8月号】連続写像の概念
次のような順番で連続写像を定義しています。
(1) 通常の距離が入っている距離空間 について、関数 の連続性をε-δ式の議論で考える。
つまり、「 が において連続であるとは、 の任意の -近傍の逆像が のある -近傍になる」ことを確認する。ここで、 -近傍や -近傍が開区間であることに注意。
(2) 開区間を、一般の近傍に拡張して考える。
(3) さらに一般化して、2つの位相空間 と の間の写像が連続であることを、 と の近傍を使って定義する。
(4) そして、近傍を開集合に拡張しても、連続性を特徴づけられることを確認する。
第1回から一貫して、近傍という概念を話の中心に据えて議論を展開していることがとても印象的です。
新しい位相空間の例
【第6回 - 2018年9月号】連続写像の概念(演習)
第5回で出てきた3つの演習問題の解答が書かれています。
非常に詳細に書かれていて、大学数学を初めて勉強する人にはとても参考になると思います。
特に、演習1の解答では、何を証明すべきかの考え方がわかりやすく書いてあります。
【第7回 - 2018年10月号】閉集合・境界・同相写像
前半は、閉集合について扱われています。
- 触点・閉包・境界の定義
- 閉集合の定義と開集合/閉集合の直感的イメージ
- 位相空間(が定義された集合) の部分集合 についての以下の4つの演算の関係
- 補集合を取る演算
- 閉包を取る演算
- 内部を取る演算
- 境界を取る演算
後半は、開写像を明確に意識させた上で、同相写像の定義が述べられています。
連続な全単射が開集合を開集合にうつすとは限らないという事実は,連続な全単射といえども,位相空間の構造を完全に保つわけではないことを意味します.群やベクトル空間などの代数系においては,準同型で全単射であれば同型写像になるのですが,位相空間の場合は,そうなっていません.
(『数学セミナー 2018年10月号』73ページより引用)
最後は位相不変量が説明されていて、位相不変量には“精緻さや粗さ”があることがほのめかされています。
【第9回 - 2018年12月号】基本近傍系・開基・稠密性
第8回までで、位相空間を定義する方法として、開集合系や閉集合系などが説明されました。
今回はこれらに加えて、基本近傍系と開基による定義が説明されています。
これらすべての定義の方法が同値であるというのが、個人的にはとても美しいと感じます。
以下、個人的にあまり知らなかったことのメモです。
【第10回 - 2019年1月号】基本近傍系・開基・稠密性(演習)
第7回の演習問題3問に加えて、以下の2つが書かれています。
- 集合 の任意の部分集合族 によって生成される位相
- は のメンバーをすべて開集合とするために必要なぎりぎり最小限の開集合のみからなる。(P68より引用)
- 1つの集合に対して、入れる位相によって可分性は異なる。
- 本文での例: に入れる3種類の位相
【第11回 - 2019年2月号】点と点を区別する:分離公理
5つの分離公理「 分離公理」 を中心に話が進められています。
ちなみに、 分離公理を満たす位相空間はハウスドルフ空間と呼ばれています。 *2
各種分離公理が成り立たない例、位相の強弱、直積空間への分離公理の継承について、イメージ図や証明を使ってわかりやすく説明されています。
位相空間のフィルターを使った点列の収束の定義は、個人的に初めて知りました。
連続性の性質を含めて、距離空間での定義の自然な拡張になっています。
これまでは分離公理をほとんど意識せずに数学をしてきたので、以下の言葉がとても勉強になりました。
解析学や位相幾何学で出会う位相空間の多くはハウスドルフ空間なのですから,ハウスドルフでない空間が一見奇妙に見えるのも無理はありません.しかし,ハウスドルフ空間でない位相空間にも,代数幾何学におけるザリスキ位相や,コンピュータ・プログラムの理論におけるスコット位相など,応用上重要な例があります.(67ページから引用)
【第12回 - 2019年3月号】点と点を区別する:分離公理(演習)
第11回の演習問題の解答に加えて、無限個の空間の直積への位相の定め方が書かれています。
直積空間は元の位相空間たちが満たす分離公理を保存しますが、可算性・可分性は必ずしも保存されないようです。
【第13回 - 2019年4月号】離れていることとつながっていること
冒頭は、これまでの連載について振り返りと今後の見通しです。
連載中で漏れていたという、内点の定義も書かれています。
今回のテーマは連結性です。
まずは、離れている(不連結である)という概念について観察をしてから、連結であることの定義をしています。
私が学生時代に教科書に指定された 『集合・位相入門』(松坂和夫) では、連結であることの定義がいきなり書かれていて理解が難しかった記憶があるので、今回のような説明はとてもわかりやすく感じました。
そして、以下の内容について説明されています。
最後に、微積分学に出てくる中間値の定理が、より一般化された主張から導かれています。 *3
連結性の証明が難しいと感じていた理由
連結であることは「~を満たす開集合が存在しないこと」と特徴づけられます。
連結性の証明は難しいと思っていましたが、「存在しないこと」を示すことに困難を感じていたのかもしれません。
【第14回 - 2019年5月号】離れていることとつながっていること(演習)
前半は第13回の演習問題の解答です。
後半は直積空間の連結性/弧状連結性についてです。
(定理:2つの連結な位相空間の直積は連結である。逆も成り立つ。)
【第15回 - 2019年6月号】コンパクト性をめぐって
この連載では、フィルターを使って位相空間のいろいろな概念を説明することが多くあります。
今回のテーマのコンパクト性でも、まずフィルターを使った定義をして、いくつかの同値な条件を導いています。
同値な条件の中には、「任意の開被覆が有限部分被覆を持つ」ことが含まれます。
私がコンパクト性を習ったときは有限開被覆で定義されましたが、「なぜそのように定義するか?」を疑問に思っていました。
フィルターを使った議論でスタートすることで、その疑問が自然と解消できたように感じました。
【第17回 - 2019年8月号】正規空間とウリゾーンの補題
第11回に出てきた正規空間 *4 が満たすウリゾーンの補題の証明と適用例について書かれています。
正規空間の特徴を「分離できる」という言葉で捉えるとすると、0と1のように白黒きっちり分けると考えがちです。
ウリゾーンの補題の主張を見たときの私の第一印象は、「グラデーションのように分離できる」ということでした。
ウリゾーンの補題の適用例として、連載全体を通しておなじみの、ゾルゲンフライさんが出てきます。
この記事では、ゾルゲンフライ直線の直積空間であるゾルゲンフライ平面が正規空間でないことが示されています。
ちなみに、松坂和夫『集合・位相入門』のを見てみると、「正規かつ第2可算公理を満たす位相空間は、台集合に適当な距離を入れた距離空間と一致する」という距離づけ定理の証明で、ウリゾーンの補題が使われています。(第6章 §6)
連載「高校数学ではじめる整数論」~『数学セミナー』読書メモ
『数学セミナー』では、2019年4月号から「高校数学ではじめる整数論」(谷口隆)の連載が始まりました。
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2019/03/12
- メディア: 雑誌
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この記事では、この連載のメモを毎号追記していく予定です。
なお、問題の解答例は以下のサイトに掲載されています。 → 数学セミナー 編集部ブログ
【第1回 - 2019年4月号】素数のレース
「ある数以下の素数全体を与えられた自然数で割った余りで分類したときに、どの余りに属する素数が最も多いか」を観察することから始まります。
そして、リーマンのゼータ関数、リーマン予想と素数との関係、ディリクレの L 関数と最初の観察結果の関係へとつながっていきます。
「リーマン予想は、リーマンのゼータ関数 だけでなく、ディリクレの L 関数でも成り立つのではないか?」という予想は、数ヶ月前の『数学セミナー』に出ていた…と思いましたが見つけられず。
ちなみに、ディリクレの L 関数の定義 で関数 を常に 1 となる関数で置き換えると、リーマンのゼータ関数が得られますね。
【第2回 - 2019年5月号】関とベルヌーイの数列
【第3回 - 2019年6月号】あまりたちのなすサイクル
素数 についてのフェルマーの小定理 *2 とウィルソンの定理 *3 から話が始まります。
(大学数学風に書くと、)整数を素数で割ったあまりの性質を観察して、 *4 が原始 乗根を生成元とする巡回群をなすことが説明されています。