特集「ランダム行列」~『数学セミナー2019年2月号』読書メモ
『数学セミナー 2019年2月号』の特集は「ランダム行列」です。
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2019/01/12
- メディア: 雑誌
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ランダム行列という用語は初めて聞きました。
記事を読んでいくと、「そもそも、乱数とは何か?」という根本的な疑問からスタートして、整数論や物理への応用があることがわかりました。
今回の特集を構成する5つの記事は、いつもよりも関連性が強く、相互参照することでより理解が深まるように思いました。
ランダム行列とはなにか
この記事の冒頭で、「乱数とは何か?」ということが書かれています。
ざっくり言うと、次のようになります。
- ① 乱数が取る値の範囲を決める。
- ② 複数の乱数を同時に指定する場合、その間に相関を持たせるか?
- 例1:複素数の場合…実部と虚部の間の相関(独立にすることもある)
- 例2:行列 の場合… も1つの相関(この場合はエルミート性)
- ③ 乱数たちの分布をどう指定するか?
行列の成分を上のようなルールで指定した乱数としたものをランダム行列と言います。 *1
①~③の指定によりランダム行列の統計集団が定義されます。
いくつかの限定された統計集団について、ランダム行列の固有値の確率法則が行列サイズを無限大にしたときにどうなるかが研究対象であると説明されています。
この記事では、固有値が比較的調べやすい、特徴的な *2 行列を対象とした統計集団の性質と統計力学の関係について書かれています。
リーマン予想とランダム行列理論
リーマン予想で述べられているリーマン・ゼータ関数の零点とランダム行列の固有値が関係していることが説明されています。
前半は、ゼータ関数 *3 とリーマン予想について詳しく説明されており、これだけでも読む価値があると思うほどです。
また、16ページに書かれている2変数関数の条件に関する考察は、数学での一般化と具体化の行き来を感じられる内容で、個人的に勉強になりました。
ランダム行列から行列式点過程へ
ランダム行列の固有値の性質を知る手がかりとなる行列式点過程を相関関数を使って説明しています。
冒頭の固有値が円板状に分布している図、最後の電気回路の図があり、図を見るだけでも楽しいと感じる記事でした。
ランダム行列の応用
ランダム行列の応用について、以下の内容が書かれています。
*1:20ページの言葉を借りると、「確率変数を成分とする行列」とも言えます。
*2:確率測度がユニタリ変換・直交変換・シンプレクティック変換で不変になる。
*3:15ページに書かれている「有限体上で定義される代数多様体(スキーム)のゼータ関数」は、ラングランズ・プログラムを示唆している?
*4:シュレディンガー方程式と表現論、母関数、組合せ論など、個人的に興味がある言葉が並んでいます。素粒子と表現論による分類は、最近読んだ『数学の大統一に挑む』(エドワード・フレンケル)の冒頭の内容に関係する?
*5:確率論的手法を使うと、「区間 [0, 1] 上の一様分布に従う確率変数は確率1で超越数である」ことが証明できるとのこと。(36ページ)
*6:ランダムな置換を「置換に値をとる確率変数」と説明しているのがおもしろい。(36ページ)