7931のあたまんなか

テーマ:数学/読書メモ/自分の考え方/水曜どうでしょう/交通関係(道路・航空)など。うつと生きる30代後半の男です。

連載「試験のゆめ・数理のうつつ」 ~ 『数学セミナー』読書メモ

数学セミナー』では、2017年4月号から、時枝正さんによる「試験のゆめ・数理のうつつ」が連載されています。

いろいろな分野の重要定理やそれを使った問題を俯瞰できる連載で、とても気に入っています。
各月でどのような内容が紹介されているかを記録するのが、この記事の目的です。

この連載の概要

ケンブリッジ大学の数学専攻の試験にトライポスというものがあります。

この連載では、各月のテーマごとにトライポスの雰囲気を感じられる問題が紹介されています。

各月で紹介される問題は10問前後で、簡潔な解答がつけられています。

複数分野が融合された問題も見られ、意外な発見があるのが楽しみです。

【第1回 - 2017年4月号】ケンブリッヂの入試

イントロダクションとして、ケンブリッジの数学専攻に入るための口頭試験のサンプル問題が紹介されています。

「口頭」と言いながらも、このような試験のようです。

座るやいなや,問題を与える.「口頭」とは名ばかり,その場でペンと紙をどしどし使わせ,つまづくようす,解くようす,あきらめるようす,巻き返すようす,を観察する.すぐ解けるようなら問題を難しくし,なかなか解けぬようなら易しくし,初めの2~3分でその人がこなせるぎりぎりの水準を探り当て,30分間6つ~7つ問題をやらせるのである.
(『数学セミナー 2017年4月号』45ページより引用)

紹介されている12問から2問を引用します。

問3 100! のしっぽにはいくつ 0 が連なるか?

問6 すべすべな面に静止したおはじきAに,同質量のおはじきBをぶつけると,散乱角は 90° になる.これを導け.正面衝突させると何がおこるか?

【第2回 - 2017年5月号】確率:逆説あれこれ,条件付けて考える

一般的な確率の問題から、標本調査、ベイズ統計、条件付確率/期待値、幾何確率、積分確率などに関する問題が紹介されています。

印象的だったものは、 調和平均 ≦ 幾何平均 ≦ 算術平均 の関係を確率論的にとらえた問題(題5)です。

確率や期待値を積分を使って評価する問題もいくつかあります。
あまりやったことがないので、とても新鮮に見えました。

【第3回 - 2017年6月号】力学:保存量やりとり,次元解析

運動量、遠心力、ケプラーの三法則、エネルギーなど、数学というより物理の内容です。

高校物理+αしか学んでいない私にとって、新鮮味がある問題ばかりでした。

例えば、こんな問題。

題5 片面バターを塗ったトーストがテーブルの縁から落ちると,えてしてバター面がうつぶせに着地しますよね.くるりとフル回転してあおむけに着地させるためにはテーブルの高さを何倍にすべきか?即答しなさい.

題8 川床にグラフ  B=B(x) で与えられるこぶを築いたとき,川面の高低はどう変わるか?

【第4回 - 2017年7月号】群:対称性をみぬき,作用してほぐす

タイトルにあるとおり、群の作用に着目した問題が紹介されています。

問題に対する解答の帰結として、基本群の例やフェルマーの小定理が得られる問題もあります。

考えたことがなかった!と思ったのが、次の2つの問題です。

題7 群から2元をランダムに抽出したとき,それらが可換な確率は何か?

(題8の後に書かれた内容の抜粋)
群,群というけれど,群ってありふれた存在なのでしょうか?それとも稀なのかな?
定理 位数  n の群の数は高々  n!^{\log_2 n} である。
―結合律はかくも厳しい要請なのであった。

【第5回 - 2017年8月号】1変数の微積分:テレスコープ原理,連続と離散

この回は、以下の3つの部分に分類されます。

ディガンマ関数とは、ガンマ関数の対数微分を取ったものとのこと。

ガンマ関数が乗法的とすると、ディガンマ関数は加法的と考えられ、無限級数との相性がよさそうです。

余談ですが、「連続と離散」というと、微分積分と差分・和分の関係を初めて知った数学ガール』を読んだときの衝撃が印象に残っています。

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

この連載と同じく『数学セミナー』で連載中の梅田亨さんの「計算するたのしみ―スターリング数のいる風景」でも、差分・和分が扱われており、いずれじっくり読んでみたいと思っています。

【第6回 - 2017年9月号】ベクトル解析:ラプラシアンの意味,球の調和場

前半は調和関数(ラプラス方程式  \triangle \varphi = 0 の解)に関する問題が紹介されています。

後半はベクトル解析を使って、重力ポテンシャルなどの話が出てきます。
(後半の内容は知識がほとんどないので、私の力では説明できません…)

調和関数は、私の修士時代の研究内容に関係してきます。
時間があれば、改めて勉強したいと思っています。

印象に残った次の問題は、複素関数論のリュウビルの定理の一般化とのこと。
具体的にどういう関係なんだろう?

題8  \mathbb{R}^n 全体で有界な調和関数は定数である。

【第7回 - 2018年4月号】数論:素数のたちい,合同式のふるまい

6ヶ月間の休載を経て、次は素数合同式の話題です。
学部時代に勉強した内容でとても懐かしい思いがしました。

内容は次のように分類されます。

素数定理を使った次の問題が印象的です。(本文と記述は変えています)

題17 素数/素数の形の有理数全体は、正の実数全体の集合で稠密である。*3

【第8回 - 2018年5月号】微分方程式:デルタとグリーン,指数函数百面相

微分方程式の解をグリーン関数と呼ばれる関数で記述する問題などが出てきます。

グリーン関数は初めて知りました。ディラックデルタ関数で記述する関数です。

ですので、たたみ込みやフーリエ変換がからむ話も出てきます。先日書いたこの記事の続きにあたる内容です。(続きを書きたいけど、手が出てません)
wed7931.hatenablog.com

ほかにも、調和振動、強制減衰振動、うなり、共鳴、シュレディンガー方程式、特異摂動といった物理関係の話題が出てきます。

【第9回 - 2018年6月号】確率:エントロピーでえらび,母函数できわめる

前半はエントロピーと確率の関係、後半はまさに確率に関する話です。

…が、今回は畑違いすぎてお手上げです。エントロピーは学部1年の物理の講義で聞いたことがあるなぁという程度です。

解答の内容は理解できませんでしたが、おもしろそうな問題を2つ挙げておきます。

題5 塩漬・糖漬が食品を長持ちさせるのはなぜか?

題11 1990年代GPSは軍事用チャネルと民間用チャネルが併存し,米国防省はわざと雑音を混ぜて民の精度を落としていた.ところが,あっけない工夫のおかげで,民のみ受信してなお軍の精度を達成する人が続出したので,雑音を廃した,という伝説がある.どんな工夫だったでしょうか?

キーワード:ボルツマン分布、確率変数の列の収束の概念いろいろ、大数の法則中心極限定理の証明、ワイエルシュトラスの近似定理など

【第10回 - 2018年7月号】力学:まわる剛体,いたずらな接点

タイトルにあるように、剛体の力学がテーマです。

自分でも多少は理解できたので、高校程度の物理の知識(慣性モーメント、摩擦係数、回転運動など)があればざっと読めるかと思います。

扱われている問題も生活に即したものが多く、イメージしやすく楽しいです。

  • 氷上の回転椅子に座って回転するには?(題1)
  • 長さが同じ4本脚の机を床に置くと、ガタガタすることがあるのはなぜか?それを直すにはどうすればいいか?(題2)
  • ビリヤード玉にバックスピンやトップスピンをかけるにはどこを打つべきか?(題8)
  • 逆立ち独楽はなぜ逆立ちするか?(題11)

【第11回 - 2018年8月号】群:位数をよりあわせ,構造をつむぐ

第4回(2017年7月号)に続いて、「群」は2回目です。

前半はあみだくじに代表される対称群置換の符号について。

 n 次対称群  S_n交代群  A_n の生成系、正多面体群と同型な群などがまとめられています。

次の問題は初めて見ました。確率と期待値を使って解かれています。

題5  S_n の置換の転倒数の平均は  \frac{1}{2} \binom{n}{2} = \frac{n(n-1)}{4}

記事内で言及されている15パズルの可解性は、『数学セミナー 2017年10月号』で取り上げられています。

wed7931.hatenablog.com

後半は元の位数に関する問題です。

印象的なのはこの問題です。

題8  S_9 に位数20の元は存在するか?位数18の元はどうか?  S_n の元の最大位数はどのくらいか,みつもれ.

最後には、スピンの実験が説明されています。群の準同型と2重被覆、ホモトピー類を体現する実験とのこと。 *4

【第12回 - 2018年9月号】線形代数:自由度の勘定,行列の分解

ガウスの消去法や次元定理などの線形代数の基本から、ラグランジュ補完、ホモロジー、離散フーリエ変換などの話題に展開していきます。

線形代数の教科書でよく見る問題が多い中、次の2つの問題が印象的です。前者は計算量、後者は固有値に関する問題。

題3 四則演算を1ステップと数えて,未知数  n 個,式  n 本の消去法のコストをみつもれ.クラメールの規則と比べよ.

題14 一年中雨季のケンブリッヂでは,  k 日目の降水量  r_k \frac{r_{k-3} + r_{k-2} + r_{k-1} }{3} と予報する.  r_1, r_2, r_3 は天気予報史初期の観測値,三日坊主で以来観測はやめてしまった.この数列は収束するか?収束先の極限は?

【第13回 - 2018年10月号】多変数微積分:渦巻く場,秘法 εε=δδ-δδ

前半はラグランジュ乗数やヘッセ行列、ストークスの公式などが扱われています。

後半はベクトル積とナブラ  \nabla の関係式と物理との関係です。ビオ-サバールの法則、マクスウェル方程式、ナビエ-ストークス方程式など、物理関係の用語が並びます。

次の問題は一見とっつきにくいですが、解答を見て「なるほど!」と思いました。

題5 閉多角形各辺にその辺のサイズの外向き垂ベクトル  \mathbf{n}_i を植える.  \sum_{i} \mathbf{n}_i = 0 である(各  \mathbf{n}_i を90°捻った和は閉 =0.捻る前の和も =0).閉多面体の類似はいかに?アルキメデスの浮力を説明しなさい.

【第14回 - 2018年11月号】集合:明るい形式,無限の暗がり

数学的帰納法、集合の基数(濃度)、選択公理・整列定理・ツォルンの補題の同値性など。

松坂和夫『集合・位相入門』で勉強していた内容を、とてもざっくりと復習した感じです。

印象的なのは次の問題です。ここで、可算無限  \aleph_0 = | \mathbb{N} | と連続体の濃度  \mathfrak{c} = \aleph= | \mathbb{R} | です。

題4  \mathbb{R} から  \mathbb{R} への解析関数全体の基数を言え.(文言を変えています)

題5 連続関数  f:  \mathbb{R} \to \mathbb{R} で,有理数では無理値を,無理点では有理値を取るものは存在するか?存在するなら例を作り,しないなら理屈を説明せよ.

 \mathbb{Q} \mathfrak{c} 次元ベクトル空間  \mathbb{R} の基底の存在(解8の文中)

加えて、あまりなじみのないシュペルナー族やランダムグラフ(とベッチ数の関係)についても書かれています。

【第15回 - 2018年12月号】微分方程式:軌道のゆくえ,相図のかわりめ

常微分方程式の解軌道、平衡点(不動点)の安定性と分岐、微分方程式を離散化した差分方程式、力学系など。

後半は物理に関係する話題が出てきます(減衰ふりこ、勾配流、シュレディンガー方程式など)。

常微分方程式はほとんど理解できていないため、うまくレポートできないのが残念です…。

【第16回 - 2019年1月号】確率:分枝と乱歩,ポワソンと待ち行列

前半は3種類の確率過程(分枝過程、乱歩、連続時間の確率過程)、後半は待ち行列のモデルについて書かれています。

特に、乱歩の確率過程では母関数(離散的な確率分布を係数にした冪級数)が大きな役割を果たしています。

乱歩は 『数学ガール/乱択アルゴリズム』 第8章、母関数は 『数学ガール』 第4章が参考になりそうです。

【第17回 - 2019年2月号】特殊相対論:時空の幾何,4運動量の物理

前半は、特殊相対論の主張やそこから導かれる内容について、ミンコフスキー時空やローレンツ群を使って説明されています。

光円錐やローレンツ群の単位元を含む連結成分  \mathrm{SO}^{+} (1,1) などが出てきて、自分が書いた表現論の修士論文に出てきた!とワクワクしました。
もう一度、きちんと理解したいものです。

後半は、4運動量と呼ばれるものを使って議論が展開されています。
残念ながら、ほとんど理解できませんでした…。

題4に書かれている「光速以下の速度をいくら加えたって光速は超えない」という主張がとても印象的です。

【第18回(最終回) - 2019年3月号】トライポス小史

この連載で扱われたトライポスの歴史が書かれています。

年代が進むにしたがって出題範囲が広くなっていっています。

18世紀の出題範囲にすでに含まれている静水力学という用語を初めて知りました。流体力学があることを考えると自然ですね。

また、後半に書かれている、学生指導についての筆者の工夫が印象的です。

*1:素因数分解をしたときに(1以外の)平方因子を持たない数のこと。つまり、素因数分解が相異なる素数の積になる。

*2:フェルマーの小定理の一般化

*3:つまり、 \alpha < \beta を満たす任意の正の実数  \alpha, \ \beta に対して、  \alpha < p/q < \beta を満たす素数  p, \ q が存在する。

*4:あまり理解できていないです…。

連載「眠れぬ夜の確率論」 ~ 『数学セミナー』読書メモ

数学セミナー』2018年4月号から、原啓介さんによる「眠れぬ夜の確率論」の連載が始まりました。

タイトルのとおり、テーマは確率論です。

高校で、場合の数、確率、条件付き確率を勉強しますが、自分にとってはどれも苦手な分野でした。

大学入試の2次試験では、

  • 場合の数の簡単な問題(碁盤の目の問題)で計算ミスをして、自己採点でへこむ。
  • 本番で確率は出ないでほしい!と思っていたら、その通りになってホッとした。

というような思い出があり印象的です。

確率論は苦手な分野ではありますが、高校数学よりも少し高い視点から確率論を見直してみて、何か得ることがあればと思っています。

【目次】

【第1回 - 2018年4月号】どうやら確からしい話

副題は「ある高校生,近江の君,ラプラス,その他の物語」です。

中学・高校で学習した「同様に確からしい」 *1 というちょっと不思議な言葉をたよりに、確率論の歴史が説明されています。

そして、「同様に確からしい」式の確率論はラプラスが提示した確率の原理がもとになっていることが説明されています。現代の言葉でいうと、次のようなものです。

  • 第一原理:確率の定義
  • 第二原理:和の法則(ここがポイント!)
  • 第三原理:積の法則
  • 第四~第七原理:条件付き確率、ベイズの公式、ベイズ推定
  • 第八~第十原理:期待値

ちなみに、この内容は数学ガール乱択アルゴリズム第4章で古典的確率として紹介されているものです。

数学ガール/乱択アルゴリズム (数学ガールシリーズ 4)

数学ガール/乱択アルゴリズム (数学ガールシリーズ 4)

【第2回 - 2018年5月号】あなたの人生の期待値

副題は「心の代数,千両みかん,ホームズ最後の事件,その他の物語」です。

未来の行動を選択するための期待値的な考え方について、過去に論じられた例を使って説明しています。

ポイントは以下の内容でしょうか。(本文より引用します)

ラプラスは確率の定義とベイズ推定について述べた第七原理までに続いて,第八から第十原理の三つで期待値の基本的性質を述べます.興味深いことは,既にこの時点で,人間の問題に期待値を応用するには絶対的な値の他に相対的な値も加味して,「精神的期待値」を考える必要がある,と書かれていることです.

【第3回 - 2018年6月号】確率・長さおよび面積

副題は「キャロルの三角形,並行宇宙,確率変数の謎,その他の物語」です。

学生時代に確率論の講義を受講していました。詳細な内容はほとんど覚えていませんが、測度論確率を関連付けて議論していたということは覚えています。

なぜこの2つを関連付けるかはよくわかりませんでしたが、この記事を読んで納得しました。一部を引用します。

「重なりのない図形に点を選ぶ確率は各図形に点を選ぶ確率の和である」と「確率はたかだか1である」の二つを守る限り,我々は「一様」には点を選べないことになります.(略)結論から言えば,確率は面積や長さと同じものだ,という直観は正しかったのですが,「長さ」や「面積」自体に徹底的な反省と再構築が必要だったのです.

その結果として得られたコルモゴロフによる確率の定義が書かれています。σ-加法族を定義した上で、確率空間確率が定義されています。

続いて、確率変数が定義されます。確率変数は高校以来、いまだによくわかっていないです…。

なお、コルモゴロフによる確率の定義の易しい形 *2数学ガール乱択アルゴリズム第4章に書かれています。

【第4回 - 2018年7月号】天才フォン・ミーゼス閣下の蹉跌

副題は「謎のコレクティヴ,ポワソンのごまかし,ミッシングリンク,その他の物語」

前回説明があったコルモゴロフによる確率の定義が固まる前に提唱されたミーゼスの確率の「定義」についてのお話です。

そのベースとなる考え方は、コルモゴロフの確率空間に対して、ミーゼスはコレクティヴでした。これは実験データを表す無限列を集めたものと言えます。

本文に書かれているコレクティヴの定義を読んだとき、わかりやすくて正当性がありそうと自分は思いました。

しかし、コイン投げなどの例を使って掘り下げていくと、現代の確率論とはズレがあり、数学的には筋が悪そうだということが見えてきます。

(私の説明では循環論法のきらいがありますが、)それを解消したのがコルモゴロフの確率空間の定義だと言えます。

一方、本文の最後に書かれている内容を読むと、ミーゼスの考え方をもっと汲み出すと現在も議論が続く確率と統計のミッシングリンクを埋められるかもしれないと思えてきます。

【第5回 - 2018年8月号】でたらめという名の規則

副題は「反規則性,コルモゴロフ再び,ポーの少年と緋牡丹のお竜,その他の物語」です。

規則性のアンチとしての「ランダム」は、コルモゴロフの確率空間で捉えられていないのではないかという問題提起で、この記事は始まります。

前回出てきたミーゼスは、コレクティヴでランダムを捉えようとしましたが、うまくいきませんでした。

その後、計算そのものの定義づけなどの発展により複雑度が定義され、そこからランダムであることが定義されました。

最後に、「確率」と「複雑度」という関係がありそうに見える概念を結び付けるものが極限定理であると締めくくられています。

おまけですが、本文では「計算とは何か」という節で計算可能性やアルゴリズムなどの概念 *3 が説明されています。これを読んでいて、森田真生『数学する身体』第2章を思い起こしました。

数学する身体 (新潮文庫)

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【第6回 - 2018年9月号】主観確率のあやしくない世界

副題は「DL2号機事件,一貫性,ダッチブック論法,その他の物語」です。

今回の内容を一言でまとめるとすると、確率に課す仮定確率を定める主観性になるでしょうか。

前半は、確率の考え方をめぐる様々な葛藤が書かれています。

後半は、主観確率を最も首尾一貫した完成された形で提出したデ・フィネッティの理論を説明しています。

ポイントは、以下の2つと言えます。

  • 期待値を基礎に置いた確率の概念
  • 確率を合理的に定めるダッチブック論法

ここからコルモゴロフの確率の定義の一部が導かれるのが、デ・フィネッティの理論の合理性かと思いました。

【第7回 - 2018年10月号】余は如何にして確率論者となりし乎

副題は「梯子酒,秘密の通路,5と7の理由,その他の物語」です。

前回までは、確率をめぐる思想に関する話題が多くありました。

今回は、筆者の確率論との出会いのエピソードをもとにして、具体的な事象の確率について書かれています。

酔歩ランダムウォーク)を出発点にして、次のような拡張を試みます。

  • 歩数を無限回に拡張する。
  • 境界値条件を課す。(梯子酒問題)
  • 1次元である酔歩を多次元化する。
  • 歩数という離散的な値を連続化する。(ブラウン運動*4

そうすると不思議なことに、2階微分作用素であるラプラシアンが出てきます。

そして、熱方程式や伊藤の公式との関係が出てきます。

さらにリーマン多様体偏微分方程式の関係が出てくることが書かれています。

これは、リー群の表現論を専門にしていた私の修士論文と関係するテーマで驚きを隠せませんでした! *5

【第8回 - 2018年11月号】エントロピーの夢

副題は「ピンチョン,シャノン,ボルツマン,その他の物語」です。

エントロピーという言葉に対する私のイメージは、物理の熱力学あたりで出てくる量というものです。具体的なことはわかりませんが…。

そのエントロピーを、情報学的エントロピーと物理学に出てくるエントロピーに分けて紹介し、確率との関係を説明しています。

結論を言うと、確率分布のエントロピーは確率分布の偏りを測る尺度といえるとのことです。
これは物理で出てくる最大エントロピー原理とも関係してきます。

『数学セミナー 2018年6月号』の「試験のゆめ・数理のうつつ」連載第9回で、確率とエントロピーの関係をいくつかの例題を使って説明しています。

【第9回 - 2018年12月号】負の確率,のようなもの

副題は「魔法のコイン,正負の打ち消し,超検索,その他の物語」です。

コイン投げをしたときに表が出る確率は0から1の実数  p で表せます。

これに対して、  p = \phi^2 を満たす数  \phi を考えます。(  \phi < 0 の場合があることに注意)

このような数の性質をうまく使って、  m 枚のコインを投げた結果の  2^m 通りの事象の確率が一度に求められる方法を考えます。

これは量子コンピュータのための量子アルゴリズムになっていると結ばれています。

【第10回 - 2019年1月号】人間原理の奇妙なロジック

副題は「絶妙な調整,人間孵卵器,人類皆殺し計画,その他の物語」です。

「絶妙な調整」や「人間原理」などの思考実験と確率の関係についての話題です。

この記事に書かれている思考実験のうちのいくつかは、私もぼんやりと考えたことはありますが、確率論につながる話であることには気づいていませんでした。

この回の内容は難しい数式こそ出てこないものの、哲学的に見えて難解な問題に思えました。

【第11回 - 2019年2月号】記憶喪失と自由意志

副題は「シンデレラの罠,眠れる美女,新旧ニューカム問題,その他の物語」です。

前回に続いて、確率に関係する思考実験がいくつか取り上げられています。

「数学は哲学だ」 *6 という言葉がありますが、今回の記事を読みながら、頭の中にこの言葉がちらつきました。

【第12回(最終回) - 2019年3月号】確率のディスクール・断章

副題は「不運と幸運,恋と運命,夢と成功,その他の物語」です。

第1段落の一部を引用します。

今回は締め括りとして趣向を変え,私たちの日常や人生との関わりを断章形式で,つまり短い文章やヒントを書いたカードをばらまくようにして,私の退場のご挨拶としたいと思います.

最終回は、(広い意味で)確率に関する短い文章で構成されています。

数学に近い文章から哲学に近いような文章まで様々です。

確率に関する哲学的考え方や思考実験が、この連載で個人的には非常に印象的でした。

*1:「同様に確からしい」を初めて聞いたのは、小学生のときに見た「平成教育委員会」だったことをはっきり覚えています。

*2:可算加法性というより、有限加法性で書かれている。

*3:本文での脚注にある「枚挙」については『数学セミナー 2017年10月号』の記事「ヒルベルトの第10問題」に書かれています。当ブログでのまとめはこちら

*4:差分と微分の関係が出てくる。

*5:私の修士論文はこちらで公開しています。 wed7931.hatenablog.com

*6:ここでは賛否は議論しません。

「エレガントな解答をもとむ」で約15年前に勉強した内容に出会った!

数学セミナーという雑誌に「エレガントな解答をもとむ」というコーナーがあります。

私は出された問題を解くよりも、解答・解説を読むことを楽しみにしています。


2018年12月号の出題2の冒頭は次のようになっています。 *1

問題全文はこちらです。

www.web-nippyo.jp


出題時点ではあまり気に留めていませんでしたが、2019年3月号の解答を読むとこのように書いてありました。

この問題の背景には「ルート系のワイル群とディンキン図形」と呼ばれるものがあります.
(中略)
読者の方々にルート系,ワイル群,ディンキン図形に楽しく触れてもらいたいという意図で今回出題させていただきました.
 
(『数学セミナー 2019年3月号』74ページより引用)

これを読んで驚きました。私が学部時代にセミナーで勉強した内容に大きく関係していたからです。


その内容をまとめたレポートを以下の記事で公開しています。

wed7931.hatenablog.com


解答を読むと次のようなことが書かれており、上のレポートに該当する(と思われる)部分があります。

  • A型のルート系のディンキン図形に関係する。
  • この問題は有限実数列の並べ替えと解釈できる。
    •  n 次対称群  \mathcal{S}_n を示唆している。
  • 操作  s_k が作用する *2 空間  \{ (x_1, \dots , x_n ) \in \mathbb{R}^n  \ | \ \sum_{j=1}^{n} x_j = 0 \}
    • これと同等な空間がレポートに  V' として出てくる。

約15年前に勉強したことを思い起こさせてくれる、意外な出会いでした!

*1:引用元: https://www.web-nippyo.jp/10317/

*2:正確ではない書き方です。

特集「ランダム行列」~『数学セミナー2019年2月号』読書メモ

数学セミナー 2019年2月号』の特集は「ランダム行列」です。

ランダム行列という用語は初めて聞きました。

記事を読んでいくと、「そもそも、乱数とは何か?」という根本的な疑問からスタートして、整数論や物理への応用があることがわかりました。

今回の特集を構成する5つの記事は、いつもよりも関連性が強く、相互参照することでより理解が深まるように思いました。

ランダム行列とはなにか

この記事の冒頭で、「乱数とは何か?」ということが書かれています。

ざっくり言うと、次のようになります。

  • ① 乱数が取る値の範囲を決める。
  • ② 複数の乱数を同時に指定する場合、その間に相関を持たせるか?
    • 例1:複素数の場合…実部と虚部の間の相関(独立にすることもある)
    • 例2:行列  (X_{ij}) の場合…  X_{ij}= \overline{X_{ji}} も1つの相関(この場合はエルミート性)
  • ③ 乱数たちの分布をどう指定するか?

行列の成分を上のようなルールで指定した乱数としたものをランダム行列と言います。 *1

①~③の指定によりランダム行列の統計集団が定義されます。

いくつかの限定された統計集団について、ランダム行列の固有値の確率法則が行列サイズを無限大にしたときにどうなるかが研究対象であると説明されています。

この記事では、固有値が比較的調べやすい、特徴的な *2 行列を対象とした統計集団の性質と統計力学の関係について書かれています。

リーマン予想とランダム行列理論

リーマン予想で述べられているリーマン・ゼータ関数の零点とランダム行列の固有値が関係していることが説明されています。

前半は、ゼータ関数 *3リーマン予想について詳しく説明されており、これだけでも読む価値があると思うほどです。

また、16ページに書かれている2変数関数の条件に関する考察は、数学での一般化と具体化の行き来を感じられる内容で、個人的に勉強になりました。

確率力学とランダム行列

前半は正規分布に従うランダム行列の詳しい性質、後半はブラウン運動との関連について書かれています。

ランダム行列から行列式点過程へ

ランダム行列の固有値の性質を知る手がかりとなる行列式点過程を相関関数を使って説明しています。

冒頭の固有値が円板状に分布している図、最後の電気回路の図があり、図を見るだけでも楽しいと感じる記事でした。

ランダム行列の応用

ランダム行列の応用について、以下の内容が書かれています。

統計学
多変量統計学の相関や仮説検定、ファイナンスへの応用
物理学
物理学の問題の離散化に関する理論物理学 *4 、量子情報理論
純粋数学 *5
ランダムグラフ理論ランダムウォーク *6整数論でのリーマン予想との関連

記事内の用語のメモ

記事内で出てくる用語をいくつか挙げておきます。リンク先はWikipediaです。

*1:20ページの言葉を借りると、「確率変数を成分とする行列」とも言えます。

*2:確率測度がユニタリ変換・直交変換・シンプレクティック変換で不変になる。

*3:15ページに書かれている「有限体上で定義される代数多様体(スキーム)のゼータ関数」は、ラングランズ・プログラムを示唆している?

*4:シュレディンガー方程式と表現論、母関数、組合せ論など、個人的に興味がある言葉が並んでいます。素粒子と表現論による分類は、最近読んだ『数学の大統一に挑む』(エドワード・フレンケル)の冒頭の内容に関係する?

*5:確率論的手法を使うと、「区間 [0, 1] 上の一様分布に従う確率変数は確率1で超越数である」ことが証明できるとのこと。(36ページ)

*6:ランダムな置換を「置換に値をとる確率変数」と説明しているのがおもしろい。(36ページ)

連載「やわらかいイデアの話」 ~ 『数学セミナー』読書メモ

数学セミナー』2018年4月号から、藤田博司さんによる「やわらかいイデアのはなし」が連載されています。

位相空間の初歩の話をする連載です。

各月の内容を自分なりにまとめるのがこの記事の目的です。

なお、偶数月号で講義、奇数月号で前月の演習問題の解説をするスタイルの予定とのことです。

私の位相空間の思い出

連載の内容まとめの前に、私にとっての位相空間の思い出を書いておきます。

位相空間を初めて知ったのは大学1年の数学科の講義で、教科書は『集合・位相入門』(松坂和夫著)が指定されました。

集合・位相入門

集合・位相入門

位相空間の特徴づけとして、開集合系の公理から入りました。

その後、閉集合や近傍などの概念、写像の連続性、点列の収束、距離空間、コンパクト性などと進んだ記憶があります。

ユークリッド空間  \mathbb{R}^n での各概念のイメージはおおよそつかめましたが、一般の位相空間ではイメージができないまま卒業したという形です。

【第1回 - 2018年4月号】大きい数・近い点・近傍フィルター

まずは、集合の基本についての説明です。

次は、「十分大きな実数」「十分近い点」という一見すると不思議な言葉について考え、フィルター近傍フィルターの定義が説明されます。

この近傍フィルターを手がかりに、位相について学ぼうということです。

最初に書いた開集合系とは異なる導入なので、今後の展開が楽しみです。

【第2回 - 2018年5月号】大きい数・近い点・近傍フィルター(演習)

第1回で出された4つの演習問題の解説です。

演習3の(5)の証明は私も試みましたが、議論が煩雑になり混乱してしまいました。本文中の記号でいうと、  r, \ \mathrm{P}, \ \mathrm{P'} , \ \mathrm{Q} を証明中で混乱して使ってしまったのが原因でした。

なお、本筋からずれますが、本文中の次の言葉が印象的でした。

大学の数学に初めて触れる人の中には,こうした「正解がひとつでない状況」に戸惑う人も多いようです。
(『数学セミナー 2018年5月号』46ページより引用)

本文中の例とは異なりますが、「ε-δ式の証明で具体的にδを与えるときに複数の候補からどれを選ぶかで悩む」というようなことです。

私にも同じ経験があるので、この気持ちはよ~くわかります。

【第3回 - 2018年6月号】近傍フィルターを生み出すしくみ ― 距離関数と開集合系

これまでに導入された近傍フィルターと今回導入される開集合系が同等であることをが説明されています。

距離空間

  • 距離関数の定義
  • 距離空間の例
    •  \mathbb{R}^2 上の距離(通常とは異なる距離)
    •  \mathbb{N} のべき集合上の距離
      • 部分集合の対称差を使って定義する。
      • カントール空間のひとつの実現方法
    •  \mathbb{Z} 上の)  p 進距離
  • 距離空間であれば、近傍フィルターは定義される。
  • 逆に、近傍フィルターは必ずしも距離関数で与えられるわけではない。
    • 本文に具体例あり。
    • あらゆる距離関数について、具体例で示した近傍フィルターが得られないことを示している。

近傍フィルターと開集合系

  • 近傍フィルターの性質を吟味して、開集合を定義している。
  • 開集合の性質を吟味して、開集合系を定義している。
  • 近傍フィルターを定めることと開集合系を定めることは同等であることを示し、位相空間を定義している。

【第4回 - 2018年7月号】近傍フィルターを生み出すしくみ(演習)

第3回の演習問題の解答が書かれています。

初めて知った概念は超距離不等式でした。

距離空間  (X, d) 上の点  x, y, z \in X に対して、超距離不等式とは  d(x,z) \leq \max \{ d(x,y) , \ d(y,z) \} を言います。これは三角不等式よりも強い不等式です。

超距離不等式を満たす距離関数を満たす距離空間アルキメデス的な距離空間と言います。(例:  \mathbb{N} のべき集合上の距離、( \mathbb{Z} 上の)  p 進距離)

【第5回 - 2018年8月号】連続写像の概念

次のような順番で連続写像を定義しています。

(1) 通常の距離が入っている距離空間  \mathbb{R} について、関数  f: \mathbb{R} \to \mathbb{R} の連続性をε-δ式の議論で考える。
 
つまり、「  f a \in \mathbb{R} において連続であるとは、  f(a) の任意の  \varepsilon -近傍の逆像が  a のある  \delta -近傍になる」ことを確認する。ここで、  \varepsilon -近傍や  \delta -近傍が区間であることに注意。
 
(2) 開区間を、一般の近傍に拡張して考える。
 
(3) さらに一般化して、2つの位相空間  (X, \mathscr{O}_X) (Y, \mathscr{O}_Y) の間の写像が連続であることを、 X Y近傍を使って定義する。
 
(4) そして、近傍を開集合に拡張しても、連続性を特徴づけられることを確認する。

第1回から一貫して、近傍という概念を話の中心に据えて議論を展開していることがとても印象的です。

新しい位相空間の例

密着位相空間と離散位相空間
なぜこのような名前が付いているか、ようやくわかりました。
ゾルゲンフライ直線
実数全体の集合  \mathbb{R} にある位相を入れた空間。第1回の「十分大きな実数」の定義と関係していると直感しましたが、よく見ると違うもの?

【第6回 - 2018年9月号】連続写像の概念(演習)

第5回で出てきた3つの演習問題の解答が書かれています。

非常に詳細に書かれていて、大学数学を初めて勉強する人にはとても参考になると思います。

特に、演習1の解答では、何を証明すべきかの考え方がわかりやすく書いてあります。

【第7回 - 2018年10月号】閉集合・境界・同相写像

前半は、閉集合について扱われています。

  • 触点・閉包・境界の定義
  • 閉集合の定義と開集合/閉集合の直感的イメージ
  • 位相空間(が定義された集合)  X の部分集合  A についての以下の4つの演算の関係
    • 補集合を取る演算  X \setminus A
    • 閉包を取る演算  \mathrm{Cl}(A)
    • 内部を取る演算  \mathrm{Int}(A)
    • 境界を取る演算  \mathrm{Bd}(A)

後半は、開写像を明確に意識させた上で、同相写像の定義が述べられています。

以下の文章は、写像 *1 の必要性を端的に示しています。

連続な全単射が開集合を開集合にうつすとは限らないという事実は,連続な全単射といえども,位相空間の構造を完全に保つわけではないことを意味します.群やベクトル空間などの代数系においては,準同型で全単射であれば同型写像になるのですが,位相空間の場合は,そうなっていません.
(『数学セミナー 2018年10月号』73ページより引用)

最後は位相不変量が説明されていて、位相不変量には“精緻さや粗さ”があることがほのめかされています。

【第8回 - 2018年11月号】閉集合・境界・同相写像(演習)

第7回の演習問題3問に加えて、写像の連続性に関する例題が挙げられています。

【第9回 - 2018年12月号】基本近傍系・開基・稠密性

第8回までで、位相空間を定義する方法として、開集合系や閉集合系などが説明されました。

今回はこれらに加えて、基本近傍系と開基による定義が説明されています。

これらすべての定義の方法が同値であるというのが、個人的にはとても美しいと感じます。

以下、個人的にあまり知らなかったことのメモです。

  • 第1可算公理を満たす:各点が可算な基本近傍系を持つ。
  • 第2可算公理を満たす:可算な開基を持つ。
    • ユークリッド空間は第2可算公理を満たす。
    • ゾルゲンフライ直線は第1可算公理も第2可算公理もどちらも満たさない。
  • 可分:可算な稠密部分集合を持つ。
  • これらはユークリッド空間の特徴の一部を抽出したものと言える。

【第10回 - 2019年1月号】基本近傍系・開基・稠密性(演習)

第7回の演習問題3問に加えて、以下の2つが書かれています。

  • 集合  X の任意の部分集合族  \mathscr{A} によって生成される位相  \mathscr{O}_{\mathscr{A}}
    •  \mathscr{O}_{\mathscr{A}} \mathscr{A} のメンバーをすべて開集合とするために必要なぎりぎり最小限の開集合のみからなる。(P68より引用)
  • 1つの集合に対して、入れる位相によって可分性は異なる。
    • 本文での例: \mathbb{R} \setminus \mathbb{Q} に入れる3種類の位相

【第11回 - 2019年2月号】点と点を区別する:分離公理

5つの分離公理 \mathrm{T}_i 分離公理」  (i=0,1,2,3,4) を中心に話が進められています。

ちなみに、  \mathrm{T}_2 分離公理を満たす位相空間ハウスドルフ空間と呼ばれています。 *2

各種分離公理が成り立たない例、位相の強弱、直積空間への分離公理の継承について、イメージ図や証明を使ってわかりやすく説明されています。

位相空間フィルターを使った点列の収束の定義は、個人的に初めて知りました。
連続性の性質を含めて、距離空間での定義の自然な拡張になっています。

これまでは分離公理をほとんど意識せずに数学をしてきたので、以下の言葉がとても勉強になりました。

解析学位相幾何学で出会う位相空間の多くはハウスドルフ空間なのですから,ハウスドルフでない空間が一見奇妙に見えるのも無理はありません.しかし,ハウスドルフ空間でない位相空間にも代数幾何学におけるザリスキ位相や,コンピュータ・プログラムの理論におけるスコット位相など,応用上重要な例があります.(67ページから引用)

*1:本文では、「開集合であるという性質を前向きに保つ写像」と説明されています。

*2:他に、正則空間(  \mathrm{T}_1 かつ  \mathrm{T}_3 )、正規空間(  \mathrm{T}_1 かつ  \mathrm{T}_4 )もあります。

特集「国際数学者会議2018」~『数学セミナー2019年1月号』読書メモ

数学セミナー2019年1月号』の特集は国際数学者会議2018」です。

4年に1度開催される国際数学者会議(ICM)の様子と各賞受賞者の業績が紹介されています。

ICM 2018滞在記

2018年8月1日~9日にブラジル・リオデジャネイロで行われたICMの様子が紹介されています。

その中で、プレナリートークの一覧がまとめられています。

私の興味の対象である表現論に関する講演がいくつかあり、講演内容が気になりました。

フィールズ賞:ビルカー

「ファノ多様体有界性と極小モデルプログラムへの貢献」について書かれています。

双有理幾何学と呼ばれる分野でのBAB予想に対する貢献のようです。

…残念ながら私の能力では理解できませんでした。

フィールズ賞:フィガッリ

偏微分方程式、幾何、確率論の3分野にまたがる貢献での受賞でした。

私が理解可能なものでは変分問題がこれに含まれ、最適輸送問題や流体運動、シャボン玉の形などに関係します。

冒頭では、最適輸送問題の起こりとなったモンジュ問題が数式を使って説明されており、比較的イメージしやすいものでした。

フィールズ賞:ショルツェ

受賞理由については明確な記述はありませんが、筆者との関係性を中心にショルツェさんの業績を紹介しています。

ポイントとなるキーワードは絶対ガロア群とパーフェクトイド空間のようです。

また、ラングランズ対応についても書かれていて、私の興味対象でもあるので気になっています。

前半では、  p 進数体  \mathbb{Q}_p と位数  p の有限体上の形式ローラン級数 \mathbb{F}_p ( (t) ) を使って、パーフェクトイド体が説明されています。

これについては、過去に書いたこの記事が参考になりそうです。

wed7931.hatenablog.com

ネヴァリンナ賞:ダスカラキス

受賞理由は「経済的な基本的問題に対する計算複雑度を変えた貢献」と書かれています。

前半はナッシュ均衡計算の困難性、後半はオークションの最適メカニズムの説明です。

個人的には、P vs NP問題の復習から始まっていて、すんなりと読み進めることができました。

また、記事内で最適輸送理論という言葉が出てきており、上述したフィガッリさんの研究との関係を思い起こされました。

ガウス賞:ドノホ

「疎性に着目した情報処理」の観点でドノホさんの業績が説明されています。

議論のスタートは未知変数の個数よりも条件式の個数が少ない連立一次方程式系の話で、数学的議論は比較的易しいように見えます。

数学的内容は置いておいて、次の点がとても印象的でした。

  • この研究が生かされる場面が、医療機器のMRIを例に説明されていてわかりやすい。
  • 現場での発見的手法から出発して、ドノホさんが研究活動に入り込んだ。

チャーン賞:柏原正樹

多くの数学関係のTwitterアカウントで言及された話題で、柏原さんの受賞はよく知っていた。

また、学生時代に表現論を専門にしていたこともあり、柏原さんの名前も知っていた。

実際に、記事の中にはリー群の表現論に関する話題が多く出てきていている。

D加群量子群の研究者が身近にいたこともあり興味を持っていたが、今は何も知識がないのでいずれ勉強してみたい。

フィールズ賞:ヴェンカテシュ

:この記事は『数学セミナー 2019年2月号』で書かれていますが、関連性を考慮して本エントリに記載します。(2019/2/3追記)

数論の進展に貢献したとの理由でフィールズ賞を受賞したヴェンカテシュの業績について書かれています。

保型L-関数における問題の概説から始まり、その後のヴェンカテシュの業績の説明では、エルゴード理論やリー群の表現論などの言葉が出てきます。

私が最近読んだエドワード・フレンケル『数学の大統一に挑む』の内容に関係すると思われる部分もあり、個人的にはとても興味深いです。

数学の大統一に挑む

数学の大統一に挑む

また、ヴェンカテシュの論文の特徴が随所に書かれているのが印象的です。例えば、このようなことが書かれています。

具体例によるアフターケアが行き届いているところがヴェンカテシュの論文の特徴である(45ページより引用)
 
ヴェンカテシュの論文にはそういった印象 *1 がほとんどなく,1人でも多くの研究者に自分の研究を理解してもらいたいという気持ちがよく伝わってくる.(48ページより引用)

*1:「分かる人にだけ伝わればよい」というスタンス

Android端末に物理キーボードを接続してみた。

最近、自分のまわりでスマホと物理キーボードをBluetooth接続することが流行っています。

長めの文章を書くために便利かと思い、Amazonで買って使ってみました。

PCのような使い勝手で、スマホで長めの文章を書くのがとても楽で気に入っています。

使うまでに設定周りでちょっとはまったので、メモしておきます。

Bookey touchの特徴

Bookey touchはタッチパッド付きで、Androidでは画面にマウスカーソルが出てきて、PCと同じようなマウス操作ができます。 *2

そして、マウス操作と画面タッチ操作が併用可能なのが意外と便利です。

スマホと物理キーボードの接続は簡単

スマホと物理キーボードはBluetoothで接続されます。

Bluetoothに慣れていなくても、付属マニュアルを読めば、簡単に接続できます。

物理キーボード設定は「標準キーボード」

使う上でいちばんてこずったのは、物理キーボード設定です。

スマホと物理キーボードを接続した状態で、[設定] - [システム] - [言語と入力] - [物理キーボード] で設定できます。

POBox PlusやGoogle日本語入力ATOKなど、インストールされている日本語変換ソフトが出てきます。

使用したい日本語変換ソフトを選択して、「標準キーボード」に設定します。

こうすることで、次のようなことができます。

  • full/halfキーで、全角/半角入力の切り替え(Windowsと同じ)
  • キーに刻印されたとおりの文字入力 *3

「日本語」に設定しない方がよさそう

「日本語」に設定すると、日本語変換ソフトによって次のようなことが起こりました。

  • full/halfキーで全角/半角入力の切り替えができない。 *4
  • キーに刻印されたとおりの文字入力ができない。
    • 例:キーには「Shift + 2」で「@」が入力できるように刻印されていますが、実際にはWindowsと同様に「"」が入力されます。

なので、キーに刻印されたとおりの入力をするには、「日本語」に設定しない方がよさそうです。

Windowsと同じようなコピペ操作やUNDOができる。

タッチ操作でのコピペやUNDOはやや手間がかかります。

物理キーボードを使うと、「Ctrl + C」でコピーしたり、「Ctrl + Z」でUNDOできたりと、Windowsと同じショートカットキーで操作ができます。

他にもWindowsと同じショートカットキーが使えるようです。

ノートPCを持ち運ぶ必要がなくなった!

長めの文章を書くためにノートPCを持ち運ぶことがありましたが、今後はこのようなことはなくなりそうです。

スマホの小さな画面でも、横画面にすれば長文を打つことにつらさを感じませんでした。

スマホ+物理キーボード、おすすめです!

*1:2019年1月時点でのAmazonでの価格は5000円程度。

*2:iOSでは、仕様上マウス操作はできないようです。

*3:ただし、「`」と「~」は刻印通りに入力できないようです。

*4:Shift+Ctrlなどで可能。マニュアルに書いてあります。