7931のあたまんなか

数学/読書メモ/自分の考え方/水曜どうでしょう/交通関係(道路・航空)など、頭の中にあることを書き出しています。

2023年の数学活動を振り返る

大学院数学専攻の修士課程を修了して、もうすぐ20年。
今でも、興味の赴くままにいろいろな数学に触れて、趣味として数学を楽しんでいます。

2018年から1年間の数学活動を振り返る記事を書いており、今回は2023年の振り返りをしてみようと思います。*1

※過去の振り返り記事: 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年


【目次】


数学セミナー』の読者モニター

一般向けの数学雑誌の『数学セミナー』で、読者モニターを担当させていただいています(2023年4月号から1年間)。


日本評論社さんから数学セミナーを毎月送っていただき、次号の発売までに感想やコメント(1500字以上)を編集部にお送りするというものです。

2017年4月号から毎号読んでおり、2023年度に読者モニターを募集することを知って応募したところ、ありがたいことに担当させていただくことになりました。*2


私の場合、コメントをTeXで書いてPDFファイルにして、編集部にメールで送付しています。*3
毎号、ほとんどすべての記事にコメントを書いており、最終的にはA4で10ページ前後の文書になっています。
コメントした内容について、編集部の方から返信をいただくこともあり、読者モニターの活動の励みになっています。

これまでもこのブログで読書メモの形でコメントを書いていましたが、読者モニターとしてのコメントはより踏み込んだ内容を書くことが多いため、記事の内容への理解が深まることが実感できており、数学の勉強として非常に効果的な活動だと思っています。


2024年度も読者モニターを募集していますので、興味のある方は応募してみてはいかがでしょうか。



結城浩さんの著作のレビューは10作目

2018年から『数学ガール』シリーズをはじめとする結城浩さんの著作の執筆段階でのレビューを担当させていただいています。
継続的にご依頼いただいており、とてもありがたく思っています。

2023年は以下の2冊のレビューを担当しました。

これで、私がレビューを担当する作品は10作目となりました。*4


数学ガールの秘密ノート/数を作ろう』のレビューを通して、これまで理解が不十分なまま放置していたデデキントの切断などの実数の構成について、初めて理解できたと思えるようになりました。

群論への第一歩』の内容は私にとって既知のものがほとんどでしたが、説明の仕方が独特で非常にわかりやすいと思える部分が複数ありました。
また、数学書の読み方を身につけたい人にとってもおすすめの本です。
完成版を読むのが今からとても楽しみです。


7月に結城浩の談話室という企画を通して、結城さんと初めて音声で会話をしました。
結城さんとお話ができるだけでうれしかったのですが、結城さんから私のレビュー内容について前向きな発言をいただき、本当にうれしかったです。

次回作以降も機会があれば、お手伝いしたいと思います。



その他の活動

2023年は上に書いたようなコメントを書く活動がメインで、数学書をゆっくり読んだりすることはあまりできていません。
ちなみに、2022年の振り返りに書いた数学関係の本の“インデックス”の作成(詳細はこちら)は、数学セミナーの読者モニターの活動に合わせて継続中です。

数学書を読むことはあまりできていませんが、数学書はちょこちょこ買っています。
2023年に買った数学書の写真を撮ってみました。(いつかしっかり読みたい!)

2024年にやりたいこと

2022年の振り返りで、「日曜数学会などの場で勉強したことを発表してみたい」と書いたのですが、まだ実現できていません。
特定のトピックについて勉強しているというわけでもないので、そもそもネタがあまりないという根本的な問題があります。

ですので、これまで通り、自分がやっている数学をアウトプットすることを続けていきたいと思います。
アウトプット先はブログのような公開形式かもしれませんし、読者モニターやレビューのような特定の方のみに送付する形かもしれませんが、自分が考えていることをアウトプットすることは続けていきたいです。

まぁ、あまり肩肘張らずに、2024年もこれまでと変わらず、マイペースで自分のスタイルで数学を楽しんでいこうと思います。

*1:この記事を書いているのは2024年1月7日ですが、記事の公開日は便宜上2023年12月31日にしています。

*2:応募時の自己PRの内容を読み返すと、自分の数学活動の“履歴書”のようなことが書かれています。いずれ公開してみようかとも考えています。

*3:TeXである程度の分量の文章を書くのは修士論文以来で、PC内にTeX環境を構築するのは面倒だったので、Overleafを使っています。便利な時代になりました。

*4:ちなみに、レビューのコメントはメール本文に書いて送付しています。分量にすると、1作あたりA4で15〜20ページくらいになるかと思いますので、これまでに書いたコメントは合計でA4で150〜200ページくらいになる計算です。

『数学セミナー 2023年2月号』読書メモ

数学セミナー 2023年2月号』を読んで気づいたことの読書メモです。

www.nippyo.co.jp

特集:平行線の交わる世界

今回の特集のテーマは射影幾何学です。

学生時代に、多様体の例として射影平面や射影空間を勉強しましたが、ほとんど理解できないままでした。
それから10年以上経ってから、『数学ガール/ポアンカレ予想』でクロスキャップの図を見て、射影平面が少し理解できるようになりました。
そして、現在読んでいる『正多面体と素数』では、立体射影の計算がたくさん出てきていて、射影幾何学とまた向き合っています。

こういう感じで射影幾何学をしっかり理解できたとは言えない状態ですが、射影幾何学が気になったらこの特集記事に戻ってくればよさそうだと感じさせてくれる内容でした。

キーワードを挙げると以下のようになります。

  • 射影変換からみた円錐曲線
  • 直線の交点に関する主張を点を通る直線の主張に読み替える双対原理
  • 建築の視点から見た射影幾何学の歴史
    • デザルグの定理、ファノ平面
  • 射影空間の公理
  • 射影平面とアフィン平面(座標平面)の関係
  • 有限射影平面についての未解決問題
  • 3次元空間内でみる射影平面
    • 埋め込みとはめこみ、貼り合わせで得られる閉曲面
  • 射影空間と代数幾何
    • 立体射影、複素射影空間、代数曲線、ベズーの定理

中でも、建築の視点から見た射影幾何学の歴史を扱った記事「射影幾何学の夜明け」は、珍しい視点でおもしろい内容でした。

連載:目で視る曲線と曲面 第11回

第10回のガウス曲率に続いて、今回は平均曲率について扱われています。

いろいろな曲面のガウス曲率と平均曲率が例示されており、それを表形式で整理してみました。

表を見ながら、定義に立ち返って考えてみると、それぞれの曲率の符号(正/負/ゼロ)を判定する“感覚”がわかってきました。
また、いくつかの曲率を計算する中で、学生時代にほとんど理解できなかった第1基本量や第2基本量に改めて触れることができました。

連載:組合せ論彷徨 第11回

マヤ図形とヤング図形の関係、プリュッカー関係式とグラスマン多様体などが扱われていましたが、自分には理解が難しい内容でした。
一方、筆者とWallach, Howe, Kostantの三氏との思い出などが書かれており、三氏とも私の修士論文の元ネタの論文や論文の著者であることもあって、個人的に興奮しました。

連載:ゲームに宿る数学の力 第11回

副題の「ゲーム空間の多様性/特殊相対性理論のゲーム空間」にあるように、特殊相対論の空間をベースにしたゲームがあることを知りました。
「相対論的ゲーム」というようで、やってみようかなと思います。
記事の内容も、特殊相対論の概説のような感じで楽しかったです。

『数学セミナー 2023年1月号』読書メモ

数学セミナー 2023年1月号』を読んでいて気づいたことをまとめます。

偶然なのか、前月号〜前々月号に関連する内容がいくつかあったことが印象的です。

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特集:国際数学者会議2022

2022年に開催された国際数学者会議の内容に加えて、フィールズ賞などの各賞受賞者の業績が紹介されています。

ここでは、フィールズ受賞者4名の業績紹介の記事をみてみます。

ホ・ジュニ氏の業績紹介

グラフの彩色多項式超平面配置に関する内容が書かれています。

グラフの彩色多項式は、2023年大学入試共通テストの数学Ⅰ・A 第3問に関係するテーマとしてTwitterで話題になりました。

超平面配置やマトロイドは、『数学セミナー』の連載「組合せ数学の雑記帳」で扱われていました。(2019年4月〜2020年3月)
このブログで、この連載のメモを書いていました。(途中で中断していますが…)
wed7931.hatenablog.com

メイナード氏の業績紹介

双子素数予想に関係する素数列の有界間隙についての内容です。

この中で、セメレディの定理が扱われています。

『数学セミナー 2022年12月号』でセメレディの定理が扱われたときには、「素数の重み付き密度」という用語が出てきますが、あまり突っ込んだ議論がされていませんでした。
この記事では、「重み」について、より詳しい議論が行われています。

ヴィアゾフスカ氏の業績紹介

 n 次元ユークリッド空間に同じ大きさの球を詰め込むとき、球に入っている部分の割合が一番大きくなるときのその割合  \Delta_n は?」という球充填問題について書かれています。

ヴィアゾフスカ氏は、8次元の場合にそれを求めることに成功しました。(  \displaystyle{\Delta_8 = \frac{\pi^4}{384} \approx 0.25367}

なお、

  • 1次元の場合:  \Delta_1 = 1
  • 2次元の場合:六方格子による充填(  \displaystyle{\Delta_2 = \frac{\pi}{\sqrt{12}} \approx 0.90960}
  • 3次元の場合:〈ケプラー予想〉面心立方充填など(  \displaystyle{\Delta_3 = \frac{\pi}{\sqrt{18}} \approx 0.74048}

となることが知られており、4次元以上の場合は未解決とされていました。

デュミニル=コパン氏の業績

授賞理由に関連して、この記事では統計物理について扱われています。
なお、同じ特集の中の記事である、ガウス賞を受賞したリーブ氏の業績紹介のテーマも統計力学です。

連載:組合せ論彷徨 第10回

副題は「シューア函数再び(1)」」で、シューア-ワイルの双対性が紹介されています。
こちらは前々月号(2022年11月号)で扱われており、このブログの読書メモでも取り上げました。

連載:古典力学と変分問題 第10回

変分問題の例として、極小曲面が扱われています。
身近な例では、2つの針金の間に張られる石鹸膜の形状が関係します。

石鹸膜の形状についてはいろいろな本などで読んできましたが、「あるパラメータの値を大きくすることは、2つの針金を徐々に離していくことを意味していて、いずれ弾けて消えることを記述できる」というような説明はあまり見たことがなく、新鮮に感じました。

2022年の数学活動を振り返る

趣味として数学に取り組み始めて約10年が経過しました。*1

そのときの興味や気分でいろいろな分野をつまみ食いしながら、数学を楽しんでいます。
数学書を読んだり、TwitterFacebookに流れてくる数学関係の話題に触れたり、YouTubeのコンテンツを見たり、という感じです。

2018年から1年間の数学活動を振り返る記事を書いています。
※過去の振り返りはこちらです。 → 2018年 / 2019年 / 2020年 / 2021年

これまでと同様に、2022年の数学活動を振り返ってみようと思います。*2


【目次】



2021年から継続していること

数学セミナー』の定期購読は6年目、読書メモを再開

2017年4月から『数学セミナー』を定期購読しています。
1ヶ月かけて書き込みをしながら隅々まで読んで、終わった頃に最新号が届くというサイクルが定着しています。

これまでも書いているように、特定の分野への興味が強いというわけではない自分にとって、『数学セミナー』は毎月の特集で様々なテーマを自分の意志に関係なく与えてくれるという形なのが気に入っています。

そして、2022年9月号からは、各号の読書メモを書いて、このブログで公開しています。読書メモは2017年〜2019年に書いていて一時休止していましたが、これを再開しました。
2021年の振り返りで、2022年にやりたいこととして書いた「勉強したことのアウトプットをしていきたい」を実行した形です。

ちなみに、最新の2022年12月号の読書メモはこちらです。
wed7931.hatenablog.com

数学ガールシリーズの執筆段階でのレビューは9作目に

数学ガールシリーズの執筆段階でのレビューは、著者の結城浩さんにお声がけをいただいて、継続させていただいています。
貴重な機会をいただき、本当にありがたく思っています。

2018年の『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』からレビューを担当させていただき、2022年は以下の本のレビューを担当しました。

現在レビュー中の本で、私がレビューを担当するのが9作目になります。

数学ガールシリーズのレビューをすることで、数学や物理の理解がどんどん深まっていくように思えます。
とても楽しく担当させていただいています!

数学関係の本の“インデックス”の作成

数学関係の本の“インデックス”の作成は、2021年から始めた活動です。
詳しくは 2021年の振り返りの中の記事 をご覧ください。

数学セミナー』を頭からざっと読んで、各記事からキーワードを抽出する作業をしています。
手作業でなかなか大変なのですが、記事を読み返すこと自体が楽しいので、空いた時間に少しずつやっています。

現在、以下の号の作業が完了しています。

  • 2017年4月号から2019年6月号までの全内容
  • 2019年7月号から2021年3月号までの特集記事
  • 2022年9月号から2022年12月号までの全内容

この作業をやっていると、1つのテーマが複数の号で扱われていることがわかってきます。また、多様な数学のテーマが扱われていることもよくわかります。

まさに、各号に散りばめられた様々な数学のテーマへのインデックスを作る作業です。

2022年のトピックス

熱力学のオンラインセミナーの受講

2021年からオンラインセミナーを受講する形で物理の勉強を始めました。
詳しくは 2021年の振り返りの中の記事 をご覧ください。

2021年10月から2022年8月までの約1年間、熱力学のオンラインセミナーを受講しました。
このセミナーを受講することにより、『熱力学の基礎』の第1巻をすべて読んだ形です。

熱力学は高校物理レベルの理解も怪しかったのでやや不安でしたが、微積分を使った議論をおおよそ追いかけることができた(理解できたとは言っていない)と思っています。

数学や物理の本をしっかり読んでみた

2022年は、例年に比べて、数学・物理関係の本をノートを取ったり本に書き込んだりしながら読むことが多かったと思います。

特に、10月から『正多面体と素数』をノートを取りながら読み始めました。

他にも、昨年の量子論セミナーの受講の影響もあって、『入門 現代の量子力学 ― 量子情報・量子測定を中心として』も少しずつ読んでいます。

また、本ではありませんが、学生時代に勉強していた表現論の復習を兼ねて、渡邉究先生のリー代数のYouTube動画をよく見ています。(入浴中の楽しみです)

赤江アナのお父様のコラッツ予想への挑戦

2022年1月、TBSラジオ「たまむすび」のパーソナリティである赤江珠緒さんのお父様が、コラッツ予想の証明に挑戦したということが番組内で明らかになりました。

www.tbsradio.jp

この挑戦について都度報告されるラジオの放送を聴いたり、赤江さんのお父様の自費出版の本を読むなど、約1年間追いかけていました。

マチュア数学愛好家の1人として、この挑戦を追いかけることで、得るものがたくさんありました。

これについては、話すと長くなりそうなので、改めてブログでまとめたいと思います。

2023年にやりたいこと

前回の振り返りで、2022年は「日曜数学会などの場で勉強したことを発表してみたい」と書いたのですが、仕事が忙しかったりで発表の場に立つことはできませんでした。

Twitterやブログでの発信はできているので、2023年こそは小さいことでも発表の場に立つということをやってみたいと思います。

2023年もこれまでと変わらず、自分のスタイルで数学を楽しんでいきたいです。

*1:2005年に大学院数学専攻の修士課程を修了して数年のブランクの後に、2013年ころから数学にもう一度取り組んでいます。

*2:この記事を書いているのは2023年1月4日ですが、記事の公開日は便宜上2022年12月31日にしています。

『数学セミナー 2022年12月号』読書メモ

この記事は 数学物理 Advent Calendar 2022 の18日目の記事です。

数学セミナー 2022年12月号』を読んで思ったことを書いてみます。

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特集:洋書のすすめ

英語の数学書の読み方や選び方、洋書についてのエピソードなどが詰まった特集です。

数学の英語は難しくない

この表題は、この特集の最初の記事「洋書で広がる世界」の中の見出しから引用しました。

私が数学科の学生時代に、セミナーなどで洋書を読みましたが*1、まさに同じようなことを思いました。
数学特有の言い回しはいくつかありますが、それに慣れてしまえば、中学+αで習う基本的な英語の文法の知識で十分読むことができます。

洋書を読み始めたときには、難しい言い回しだと感じることがありましたが、セミナーなどを通じて勉強していく中で気にならなくなったので、慣れの問題だったのかなと思います。

数学書で出てくる英語表現の例は「洋書で広がる世界」の中に書かれています。

数学図書室は楽しい場所

大学の図書館や図書室に触れた記事が複数あります。
特に、大学の数学科図書室の司書の方の「図書室と洋書」というコラムも含まれています。

私も修士時代には、数学図書室にはよく行っていました。
特に修士論文を執筆しているときには、毎日のように行っていましたし、夜中に真っ暗な廊下を歩いて図書室に行っていたことを思い出します。
個人的にはとても楽しかった思い出です。

その他の気になる話題

本題である洋書とは直接関係がないものの気になる話題として、作図問題に関することが気になりました。

作図問題というと、「コンパスと目盛りがない定規を使う」のが前提です。
「おすすめの洋書/数学英語のすすめ(代数編?)」という記事では、コンパスと目盛り付き定規を使うと角の3等分が作図できる(アルキメデスの作図)との記載がありました。

コンパスと定規による作図以外に、折り紙による作図があるのは知っていましたが、目盛り付き定規を使う作図というのは聞いたことがありませんでした。
言われてみるとそういうのはありえますね。

連載:数の世界の千一夜 第9回

前半は素数の分布に関する話題です。
キーワードを挙げると、算術級数定理 / ベルトランの仮説 / 素数定理 / 双子素数予想などです。

後半は、「素数の集合は、任意の長さの等差数列を無限に含む」というグリーン・タオの定理を(何段階にも)一般化した素元星座定理が出てきます。

2022年9月24日のMATH POWER 2022で関 真一朗さんが説明されていた定理です。
この定理に至るまでのエピソードを聴いて、非常に感動しました。

記事の中に出てくる“星座”の図を見ると、定理の主張がとてもよく理解できます。

*1:セミナーの中で私が読んだ数学書で書名まではっきり記憶にあるのはこの3冊です。これ以外に、修論執筆時はいろいろと読み漁りました。 A Friendly Introduction to Number Theory / Reflection Groups and Coxeter Groups / Representations and Invariants of the Classical Groups

『数学セミナー 2022年11月号』読書メモ

この記事は『数学セミナー 2022年11月号』の読書メモです。

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特集:私の選ぶ「推し図形」

メビウスの帯や結び目などというような比較的イメージしやすい図形から本格的な数学につながる話や、格子点や円周などを題材に高校数学の少し先を見せてくれる話、表現論やコホモロジーなど本格的な数学に直結する話など、多くのテーマが詰まっています。

ヤング図形と表現論

学生時代に表現論を勉強していたこともあり「表現論のあるき方,ヤング図形のあそび方」の記事が、個人的にはいちばんおもしろかったです。

ヤング図形が対称群  S_n の既約表現および一般線形群  \mathrm{GL}_m の既約表現に対応すること、標準盤および半標準盤によってそれぞれの表現の基底が構成されることなど、集中講義などで勉強したことが思い出されました。
2つの作用  \mathrm{GL}_m \curvearrowright (\mathbb{C}^m)^{\otimes n} \curvearrowleft S_n から得られるシューア・ワイルの双対性  (\mathbb{C}^m)^{\otimes n} \simeq \bigoplus_{\lambda \vdash n} V_{\lambda} \otimes U_{\lambda} については、紙に1つ1つ書きながら復習しました。
後半に書かれていた冪零軌道とジョルダン標準形の関連も、当時勉強したはずです(あまり記憶にない…)。

連載中の「組合せ論彷徨」の内容と重複するところがあり、連載とこの記事を合わせて読んで、理解を進めていきました。

記事の内容をまとめたメモはこういう感じです。
(全3ページをPDFファイルにしました → こちら

ちなみに、この記事の筆者である西山享先生が書かれた資料は、修士論文を書く際に参考にさせていただいたという思い出があります。懐かしいです。

結び目に関する話題

12本の記事のうち3本は、結び目に関する話題を扱っていました。
個人的にはあまりなじみがないテーマですが、いろいろなところで話題に出てきていて気になっています。

一筆書き、メビウスの帯クラインの壺、4次元立方体

特集の中には、一筆書き、メビウスの帯クラインの壺、4次元立方体が出てきます。
このテーマを扱っている本といえば、数学ガールポアンカレ予想です。
特に、4次元立方体の記事を読むときは、『数学ガールポアンカレ予想』の第5章がとても参考になりました。

幾何学を学ぶ上での考え方の軌道修正

この特集とは直接関係がないのですが、「三葉結び目」「Θグラフ」の記事の冒頭では、大学で幾何学を学ぶ上では図形を捉える考え方を軌道修正する必要があるということが書かれています。
このことは自分も苦しめられましたし、今も軌道修正しきれていないかもしれません。
その苦しさがうまく言語化されており、とても印象的です。

組合せ論彷徨 第8回

副題はリー環リー環もどき(1)」で、リー環とその表現論に関する話題の概要が書かれています。

この記事で扱われているキーワードを並べてみました:
 アフィンルート系 / カッツ-ムーディリー環 /
 ハイゼンベルク代数 / 頂点作用素代数 / スーパーリー環 / 可積分系

また、物理に関するキーワードも出てきます:
 弦理論 / ボゾンとフェルミオン*1 / 超対称性

まさに、E.フレンケル『数学の大統一に挑む』で読んだキーワードです。
個人的に興味を持っているラングランズプログラムに関係する話なのではないかとワクワクしました。

ちなみに、『数学の大統一に挑む』を読んだときのメモはこちらで公開しています。

wed7931.hatenablog.com

目で視る曲線と曲面 第8回

副題は「曲面の面積」です。

曲面の面積を曲線の長さと“同じような形”で定義しようとしてもうまくいかないこと、具体的には「氷結の缶の形のような三角形分割の極限では、曲面の面積がうまく定まらない」ことが説明されています。

そのために、「曲面に厚み  \varepsilon を持たせた体積を計算し、その体積を厚み  \varepsilon で割った量の極限  \varepsilon \to 0 を取ると曲面の面積が計算できる」という方法で、曲面の面積を定義しています。
私はこのような定義は見たことがなかったのですが、言われてみるとこういう定義が出てくるのは自然なことだと思いました。

ゲームに宿る数学の力—デジタルゲームをめぐる数学 第8回

副題は「理想の楽しさの式を求めて」
今回はRPGのキャラクターの攻撃力と防御力の“設定の仕方”がテーマです。

ドラクエの計算式」という言葉があることを初めて知りました。
中学生レベルの数学で十分読める楽しい記事です。

*1:スーパーリー環 L_0 \oplus L_1 について、 L_0 はボソンの世界、 L_1フェルミオンの世界に対応していると考えてよいという記述があります。

『数学セミナー 2022年10月号』読書メモ

数学セミナー 2022年10月号』の読書メモです。

特集「ランダムウォークの進む道」

今回の特集はランダムウォークの進む道」です。
ランダムウォークというと、酔歩とも呼ばれるようにフラフラしているイメージがあるにもかかわらず、「進む道」というフラフラ感が少ない言葉がタイトルに入っているのが気に入りました。

確率入門としてのランダムウォーク

筆者の先生に当たる方がランダムウォークだけを題材に確率論入門が書けるはずだ」 (P8より引用)とおっしゃっていたようで、実際にランダムウォークから確率論の基本的事項を試みているのがこの記事です。

個人的には、非常にわかりやすく感じました。
特に、確率論と測度論の関係を自然に理解することができたと感じています。
区間の“長さ”の定義が必要だというところから、自然に測度論が持ち出されているのが見事です!

ランダムウォークの確率計算トリック

ギャンブラーの破産問題やベルトランの投票問題を題材に、2~3次元のランダムウォークが関係する確率計算を説明しています。

碁盤の目の最短経路に類する問題に関係させており、『数学ガール』シリーズでたまに扱われる話題を想起させられました。

確率計算について、

を使って説明しているのが非常にわかりやすく感じました。

この次の記事であるランダムウォークの確率解析」は、この記事の延長上にある話題です。

フラクタルの中を歩いてみると?~フラクタル上のランダムウォーク

具体的には、2次元、3次元、4次元、…のシェルピンスキーのギャスケットの中を歩くと、出発地点に再び戻ってくる確率は1か?1より小さいか?を考察しています。
(確率が1のときは再帰的、そうでないときは非再帰的といいます。)

2次元のシェルピンスキーのギャスケットは下のような図です。(Wikimediaより引用)

Sierpiński triangle.svg

フラクタルについては、フラクタル次元が定義されますが、「スペクトル次元」も定義され、これが再帰性に関係しているのではないかと考えられているようです。

フラクタルを粗く見る」という見方の説明を読んでいると、σ-加法性が裏にあることが見えてきて、確率と測度論が密接に関係することが改めて確認できました。

マルコフ連鎖と混合時間~カードシャッフルを例にして

「トランプをどれくらいシャッフルすると、よく混ざった状態になるか?」を考えるのがこの記事です。

マルコフ連鎖と確率行列を使って、よく混ざった状態なるために必要なシャッフルの回数を“計算”しています。

トランプで遊ぶときは、これを参考にしてシャッフルしてみようと思います。

離散群とランダムウォーク

この記事のテーマは、有限生成の自由群の生成元  a, a^{-1}, b, b^{-1}, c, c^{-1}, \dots から、重複を許してランダムに  n 個選んで掛け合わせて得られる語(  aa^{-1} などをキャンセルした後の生成元の個数)の長さの期待値についてです。

キーになるのはランプライター群と呼ばれる群であると説明されています。

群の半直積になじみがなく、記事の内容を読み解くのは難しかったのですが、ランプライターの動きを想像するのが楽しい記事でした。

無限グラフ上のランダムウォークと離散幾何

無限グラフの頂点をランダムウォークするときの再帰性を扱った記事です。

記事の中には、測地線など幾何学で出てくる概念や、ラプラシアンや熱方程式(熱核)のように関数解析で出てくる概念など、グラフ理論とは関係なさそうなことがたくさん出てきます。

このような概念を導入することで、グラフ理論関数解析の手法を適用できるようになったということのようです。

自分にとっては、グラフ理論関数解析が非常に離れたものだと思っていたので、すごい飛び道具のように思えました。
両者の関係を一度深掘りしてみたいテーマです。

エレガントな回答を求む ― 解答 第2問

偶然なのかどうかわかりませんが、解答2問目はランダムウォークに関係する問題になっています。

数の世界の千一夜 第7回

高木貞治が構築した類体論について扱われています。
この記事を読んだのは、MATH POWER 2022の直後であり、NHK笑わない数学の最終回を見終わった後だったこともあり、以下のツイートのような感想を持ちました。



セミメディアガイド:魅惑のロジャーズ-ラマヌジャン恒等式

この記事を読んで、ロジャーズ-ラマヌジャン恒等式になぜか興味が出てきて、仕事前にWikipediaで調べていました。