特集「絵のある数学」まとめ ~ 『数学セミナー 2018年7月号』読書メモ
『数学セミナー 2018年7月号』の特集は「絵のある数学」です。
たくさんの絵や図を使って、どのような数学(主に幾何学)が展開されているかが紹介されています。
私自身は幾何学に対する苦手意識が強いですが *1 、図を多用して説明されているので比較的わかりやすかったです。
それぞれの記事で興味深かった内容をまとめます。
絵や図を意識的に多用する数学:直観幾何学(伊藤仁一さん)
まずは、直観幾何学という言葉が説明されています。このような学問分野はありませんが、次のように説明できるようです。
ソフトウェアを使った幾何の定理の再発見
動的幾何ソフトウェアを使って、幾何の定理の再発見や新たな性質を見つけ出すことができるようになりました。
既知の定理(Steinerの定理、Lambertの定理など)がソフトウェアによって発見することができており、論文にまとめられています。また、新たな予想も発見されています。
二次曲面の構成
1つ目は、二次曲面は円織面や直角双曲線織面と言えることが説明されています。これは本文中にある図を見ると、とてもよくわかります。
2つ目は、楕円および楕円面の描き方です。
楕円の描き方として、2つの焦点に糸の両端を固定させてピンと張った状態で鉛筆を滑らせる方法を高校で学習します。
これを先に進めて、楕円面 、さらに高次元の楕円面の描き方をどう考えるかが説明されています。
結び目と曲面(小沢誠さん)
2つの図形が連続的な変形で移り合うか?
閉曲面に含まれる閉曲線を考えて、2つの図形が連続的な変形で移り合うかを考えています。 *2
『数学セミナー 2017年12月号』のホモロジーの特集でも似たような話がありました。
2つの結び目が空間内の連続的な変形で移り合うか?
これを判定するために、結び目を“太らせた”正則近傍と結び目の外部と呼ばれるものを考えるそうです。
言葉だけでは説明が難しいですが、本文にある図を見るとおもしろい図形です。
このほかの結び目についての多くの話題について書かれています。(自分には少し難しかったです…)
なんとなくフラクタルな展開図(上原隆平さん)
この記事の内容が、自分にとっていちばんグッときました。
というのも、これまで慣れ親しんでいた(つもりの)展開図に関する意識が変わったからです。
立方体の展開図は本当に11種類?
立方体の展開図は小学校で学習します。その中で、展開図は1種類だけでなく、複数あることを学びます。数学に詳しい人であれば、立方体の展開図は11種類あるということを聞いたことがあると思います。
これに対して、筆者の上原さんは「ちょっと異論がある」と述べています。
ここで数秒立ち止まって考えてみると、確かにそうだなと思いました。というのはこういうことです。
- 面にハサミを入れる展開図を考えると、展開図は無数に存在する。
- 折り線を表すために使う破線はそもそも必要なのか?
図で書くとこのようになります。
そもそも展開図の「定義」とは?
本文では、小学校で習う展開図は次の3つの条件を満たすものであるとしています。
- (1) 重なりなく平坦に広げられること
- (2) ひとつながりの多角形であること
- (3) 立体の辺に沿って切ること
そして、条件(3)を外し、(1)と(2)の条件を満たす展開図を考えることで、豊穣な世界が広がるとしています。
クライン群の風景(和田昌昭さん)
まず、幾何学における群とは、「図形の繰り返しや対称性」であると書かれています。具体的には、次のようなものです。
- 円は連続的な対称性を持っている。
- 例えば正多角形を不変にするような変換をまとめた群のような、飛び飛びの対称性を表す群を離散群という。
- 3次元ユークリッド空間における離散群を結晶群という。
そして、非ユークリッド空間でも離散群を考えることができて、3次元双曲空間における離散群をクライン群と呼びます。
これを視覚的に表現するためのツールとして、筆者の和田さんはOPTiというプログラムを開発し公開しています。 *3
本文ではいくつかの図が提示されています。おそらく上半空間モデルの図と思われます。
直近で読んだ『数学ガール/ポアンカレ予想』第4章で双曲幾何学を知ったばかりなので、それの応用を見ることができてためになりました。
円周の同相写像とフラクタル - 回転数とジッグラト(松田能文さん)
円周の向きを保つ同相写像から導出される回転数と移動数の振る舞いを調べることで現れる、ジッグラト(ziggurat)と呼ばれる自己相似形を持ったピラミッドのような図形について書かれています。
私にとっては難しく内容が読み切れませんでしたが、本文中にはきれいな3次元的なフラクタル図形が描かれています。
おわりに
冒頭に書いたとおり、私にとって幾何学は苦手意識がある分野でした。
苦手意識がある理由として、次の2つがあると思っています。
- 図形を操作する(切る、貼る、回転するなど)ことを頭の中でイメージすることが難しい。
- その操作を数式化して解釈するのがさらに難しい。
今回の特集記事を通して、(極端に言えば)図形の操作を可視化することでも研究が進むということがわかり、少し近づきやすい分野になったかなと思います。
最後に、これに関連して幾何学に関するTwitterでのルシアンさん(@Lucien0308)とのやりとりを書き残したいと思います。
ちなみに、トポロジーは図形の大胆な変形を行う分野なため、それらの数学的厳密性をつき詰めると、じつは非常に難しい数学になっています。
— ルシアン (@Lucien0308) 2018年6月22日
私もよく査読者に「その変形、もう少し詳しく説明して!」と言われてしまいます🤔(よく多様体をえぐったり捻ったりしています。笑)
私は想像力のみで結果を生み出しているというくらい、想像力に頼りっぱなしです🤔笑
— ルシアン (@Lucien0308) 2018年6月23日
様々な変形を妄想し、その実現可能性を厳密な数学によって制限していくような研究手法です😊