7931のあたまんなか

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フーリエ級数の3つの解釈/『数学セミナー 2018年3月号』読書メモ その3

引き続き数学セミナー 2018年3月号』の「フーリエ解析ことはじめ」についてです。

熊原啓作さんの「フーリエ級数とは」の読書メモの後半です。
前半はフーリエ級数の定義といくつかの性質を書きました。

wed7931.hatenablog.com

今回はフーリエ級数の3つの解釈の仕方についてまとめます。

前回の復習

周期  2 \pi の周期関数  f(x) に対して、数列  \{a_n\}_{n=0,1,2, \cdots} \{b_n\}_{n=1,2,3, \cdots} を次で定義する。
  \displaystyle a_n = \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} f(x) \cos nx \ dx \ , \ \ b_n = \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} f(x) \sin nx \ dx \ .
このとき、次の式の右辺にある形式的な無限級数 f(x)フーリエ級数という。
  \displaystyle  f(x) \sim \frac{a_0}{2} + \sum_{n=1}^{\infty} ( a_n \cos nx + b_n \sin nx) \ .

フーリエ級数の解釈(1):正規直交系への直交射影の和

関数  f(x) g(x) をベクトルとみなして、次のように内積  (f, g)長さ*1  \| f \| を定義する。
 \displaystyle (f, g) = \int_{- \pi}^{\pi} f(x) g(x) \ dx \ ,
 \displaystyle | f \|^2 = (f, f) = \int_{- \pi}^{\pi} |f(x)|^2 \ dx \ .

このとき、以下のベクトルたちの長さはすべて  1 になり、相異なるベクトルどうしは内積 0 になる。*2
 \displaystyle \frac{1}{\sqrt{2 \pi}} \ , \frac{\cos nx}{\sqrt{\pi}} \ , \frac{\sin nx}{\sqrt{\pi}} \ (n=1,2,3, \cdots ) .

つまり、このベクトルたちは正規直交系をなす。
(正規は「長さが  1 」、直交は「内積 0 」を表す。直交は高校数学のベクトルでの用語の使い方と同じ!)

フーリエ係数  a_n, \ b_n内積の定義から、次のことがわかる。
 \displaystyle (f, \frac{1}{\sqrt{2 \pi}}) \frac{1}{\sqrt{2 \pi}} = \frac{a_0}{2} \ ,
 \displaystyle (f, \frac{\cos nx}{\sqrt{\pi}}) \frac{\cos nx}{\sqrt{\pi}} = a_n \cos nx \ ,
 \displaystyle (f, \frac{\sin nx}{\sqrt{\pi}}) \frac{\sin nx}{\sqrt{\pi}} = b_n \sin nx\ \ (n=1, 2, 3, \cdots ) .

これらをすべて足し合わせると、  f(x)フーリエ級数になる。
したがって、フーリエ級数は正規直交系をなす各ベクトル(関数)への直交射影の和と言える。

フーリエ級数の解釈(2):固有ベクトル分解

 n 0 以上の整数とする。
 V_n を関数  \cos nx \sin nx で張られた空間とする(  V_n = \{ a \cos nx + b \sin nx \ | \ a, b \in \mathbb{R} \} )。また、 V_0 = \mathbb{R} とする。
このとき、フーリエ級数の各項は  V_n の元である。

 \varphi (x) \in V_n \displaystyle \frac{d^2}{dx^2} \varphi (x) = -n^2 \varphi(x) を満たすことから、 \varphi(x)微分作用素  \displaystyle \frac{d^2}{dx^2}固有値  -n^2固有ベクトルと言える。

ちょっと乱暴な言い方をすると…
周期  2 \pi の周期関数でフーリエ級数展開可能なもの全体の集合を  V とする。
このとき、  V_n V固有値  -n^2 の固有空間で、  \displaystyle V = \bigoplus_{n=0}^{\infty} V_n と固有空間分解できる。

したがって、関数  f(x)フーリエ級数微分作用素  \displaystyle \frac{d^2}{dx^2} による固有ベクトル分解ということができる。

補足

なお、本文では、より一般的な用語を使って、固有空間分解に現れる固有値  \{ 0, -1^2, -2^2, \cdots \} \displaystyle \frac{d^2}{dx^2} のスペクトルといい、フーリエ級数はスペクトル分解であると書いている。

フーリエ級数の解釈(3):平均2乗誤差を最小化するもの

先に述べた正規直交系を  \{ \phi_n \}_{n=1,2,3,\cdots} と書くことにする。

ここで、周期関数  f と 正規直交系をなす  N 個の関数の1次結合  \phi = \xi_1 \phi_1 + \cdots + \xi_N \phi_N の距離  \| f - \phi \| を考える。

 \| v \| ^2 = (v, v) (\phi_i, \phi_j) = \delta_{ij} *3に注意して計算すると、次を得る。
 \displaystyle \| f- \phi \| ^2 = \| f - \sum_{n=1}^{N} (f, \phi_n) \phi_n \| ^2 +  \sum_{n=1}^{N} |(f, \phi_n) - \xi_n| ^2

これを  f \phi平均2乗誤差という。

また、平均2乗誤差が最小になるのは、すべての  n \xi_n = (f, \phi_n) を満たすときである。
したがって、周期関数を三角関数で近似するとき、平均2乗誤差を最小にするのがフーリエ級数であると解釈できる。

そのほかに本文で書かれている内容
  • ベッセルの不等式: \displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} | (f, \phi)|^2 \leq \| f \|^2
  • パーセヴァルの等式: \displaystyle \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} f(x)^2 dx = \frac{a_0^2}{2} + \sum_{n=1}^{\infty} (a_n^2 + b_n^2)

今後の予定

今後はフーリエ変換、急減少関数、緩増加超関数と続きます。
どれも、学生時代にあまり理解できていなかったけど、修士論文で結果のみを使った分野です。
今どこまで理解できるか、楽しみです。

解釈(3)の補足

解釈(3)を理解するために、自分の場合は以下のような計算を行いました。
手書きの計算結果を載せておきます。

*1:正しくは「ノルム」と言う。

*2:高校数学で習う部分積分を使って計算できる。

*3:クロネッカーのデルタ:  \delta_{ij}= 1 \ (i=j), \ 0 \ (i \neq j)