7931のあたまんなか

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特集「ひろがりゆく可積分系の世界」~『数学セミナー2019年3月号』読書メモ

数学セミナー 2019年3月号』の特集は「ひろがりゆく可積分系の世界」です。

私にとって、可積分系という言葉は聞いたことがある程度でした。

5つの記事を読んでいく中で、数学だけでなく物理や生物など他分野との関係が広がっていることがわかりました。

そして、私がこれまでに読んだ本の中でも触れられていた概念であることに気付かされました。

諸科学に飛び出す可積分系

前半は可積分系の定義とその数学的な例、後半は他分野へ波及している内容が書かれています。

微分方程式は通常は解けないもの」 *1 だというのが出発点です。

可積分系の定義

本文では「厳密な定義がない」と断りを入れた上で、次のように記載されています。

本来は解けないはずの非線形微分方程式や差分方程式などが,ある意味で厳密に解け,さまざまなよい構造が付随するとき,それらの方程式を可積分系と呼ぶことが多い.(8ページより引用)

「よい構造」として5つが挙げられており、それぞれについて代表的な方程式や解が例示されています。

例えば、KdV方程式、サイン・ゴルドン方程式、戸田格子方程式、ソリトン解などです。

特に、ソリトンは粒子のような振る舞いを見せる孤立波として、この特集では何度も出てきます。 *2

また、従属変数の変数変換や、微分方程式の離散化による差分方程式の導出などがよく使われる方法のようです。

越境する可積分系数理モデルアルゴリズム

まずは、可積分系とそれを解くアルゴリズムの関連性を以下の例で説明しています。

次に、非線形シュレディンガー方程式 *4 や短パルス方程式を例に、可積分性や解の構造を崩さずに離散化する方法が書かれています。

最後に、ローグ波と呼ばれる海洋に突然現れる巨大な波の研究について触れられています。

箱玉系の広がり

箱玉系について、「浅水波を記述するKdV方程式の特徴であるソリトン現象に注目し,箱と玉のみからなる系に対する単純なルールとして抽出したもの」 *5 と説明されています。

力学系オートマトン、確率論などへの広がりを持つ概念として、具体例を多く交えて書かれています。

書かれている内容を実際に手を動かして計算すると、簡単なパズルをやっているようで楽しい気持ちになりました。

この記事を読み進めながら「箱玉系やオートマトンの図をどこかで見たことがある」と思って調べてみると、10年以上前に読んだ『渋滞学』(西成活裕に同じような図が出てきていました。

渋滞学 (新潮選書)

渋滞学 (新潮選書)

粘菌とソリトン

粘菌というと、イグノーベル賞を受賞した迷路を解く研究がまず思い浮かびますが、ソリトンのような挙動を示す生物としても注目されています。

これは、それを研究する生物学者による記事です。

数式は全く出てこず、粘菌のソリトンのような動きを表す写真が多く登場し、見ているだけでおもしろくて不思議な気持ちになります。

工業デザインと可積分系

工業デザインに出てくる“美しい”とか“魅力的”とされる曲線を定式化する取り組みを行ったところ、ソリトンや可積分性の性質が現れたというお話です。

対数型美的曲線準美的曲線など、「美的」という言葉が入る不思議な数学用語(?)も出てきます。

曲率、相似幾何 *6 、リッカチ方程式、弾性曲線などの概念が出てきます。

ちょっと寄り道:クロソイド(緩和曲線)

本筋とは離れますが、道路の曲線設計で使われるクロソイド(緩和曲線)がちらりと説明されています。

道路設計でなぜこれが出てくるかがずっと疑問でしたが、この記事を読んで「ハンドルを切る=曲率を連続的に変化させる」と解釈すると合点がいきました。

*1:8ページより引用

*2:私にとって最もわかりやすいソリトンの説明は、25ページにありました。

*3:行列の固有値を計算するアルゴリズムの1つ

*4:式に出てくるローマン体の i は虚数単位を表します。

*5:17ページより引用

*6:《大まかに言えば,ユークリッド幾何では「直線」を基準とし曲線の曲がり具合を表現しているが,相似幾何では円を基準にしているのである.》(30ページより引用)