関数を「関数の関数」とみなす緩増加超関数/『数学セミナー 2018年3月号』読書メモ その6
『数学セミナー 2018年3月号』の特集「フーリエ解析ことはじめ」をようやく読み終えました。
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2018/02/10
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これまで5回にわたってまとめ記事を書いてきましたが、今回が最終回です。
前回は、フーリエ変換の基本的性質から始めて、フーリエ変換が 上のユニタリ変換であることまでを書きました。
今回は急減少関数と緩増加超関数およびその応用についてまとめます。
記号の定義
本題に入る前に、いくつかの記号を定義します。
まず、この記事では、 次元ユークリッド空間 上で定義された多変数の複素数値関数を考えます。
多重指数
の 個の直積集合 の元を多重指数を呼びます。
多重指数 と 関数 に対して、 (ただし、 )と定義します。
また、 と定義します。
多変数関数のフーリエ変換
これまでの1変数関数のフーリエ変換(その4で説明)を拡張して、多変数関数のフーリエ変換を定義します。
のフーリエ変換と逆フーリエ変換をそれぞれ次のように定義します。
フーリエ変換は次のような性質を満たします。
- 関数 の反転を と定義すると、 となる。
- に対して、拡大・縮小写像 を で定義すると、 となる。
- が成り立つ。
- と がともに可積分ならば、 となる。
フーリエ変換した関数も可積分か? ~ 急減少関数
上記で述べた性質の最後にある「 と がともに可積分ならば」に注目すると、次のことが言えます。
すると、可積分関数 のフーリエ変換 も可積分になるものがどのようなものかに興味が出てきます。
そこで、シュワルツにより急減少関数という概念が導入されました。
定義 次の2つの条件を満たす関数 を急減少関数と言います。
(1) 。
(2) 任意の多重指数 に対して、 。
急減少関数の全体を で表します。
本文では、急減少関数の例として、 が挙げられています。このときは となります。
緩増加超関数とそのフーリエ変換
ディラックのデルタ関数を形式的に計算する。
物理学者のディラックが量子力学の研究の中で、次のような「疑似的な」関数 を考えました。
は「通常の」関数としては扱えないため、シュワルツは次のように考えました。
関数 を考えます。
緩増加超関数の定義
ディラックのデルタ関数を含む概念として、緩増加超関数とその微分を定義します。
定義(緩増加超関数) 次の2条件を満たす写像 を緩増加超関数と定義します。
- (線形性) に対して、 。
- (連続性) ならば、。
緩増加超関数の全体を で表します。
を とも書きます。内積を のように書くことを思い出すと、合理的な記号に思えます。
緩増加超関数の微分
定義(緩増加超関数の微分) 緩増加超関数 の超関数の意味での微分 を、写像 と定義します。
に対して、 と書けるので、 も緩増加超関数になります。
同様にして、 を と定義します。よって、 は超関数の意味で無限回微分可能です。
緩増加超関数の例
応用例:偏微分方程式 の解を考える
通常の関数を緩増加超関数としてみなすことの応用例として、偏微分方程式の解の考察が説明されています。
与えられた 上の関数 について、 を満たす がどのような関数かを考察します。
偏微分方程式の両辺をフーリエ変換すると、 となるので、次のようなことが言えます。
フーリエ変換が となる関数 は、 の解となる。
ここで問題を一般化します。
指数 を となる に一般化して *8 、フーリエ変換が となる関数を考えます。
このような関数は の 次の分数べき積分またはリースポテンシャルと呼ばれます。
各関数に対して 次の分数べき積分を対応させる作用素を とします。つまり、関数 の 次の分数べき積分を と書きます。 *9
ここで種明かしとして、 は定数 *10 と積分を使って具体的に記述できることがわかっていて、本文には式が書かれています。 *11
ここで本題に戻って、次のことが確認できればよいことがわかります。
のフーリエ変換が となる。つまり、任意の に対して、 が成り立つ。
ここでは確認手順の概略を示します。
なお本文では、より詳しい説明がされています(特に(5)の計算について)。
(1) (通常の)関数 を考える。これは緩増加超関数とみなせる。
(2) 緩増加超関数 と急減少関数 の合成積を使って、 と表せる。
(3) (2)の両辺を超関数の意味でフーリエ変換すると、 となる。
(4) 証明すべきは、超関数の意味で となることである。つまり、任意の に対して、次を示せばよい。
。
(5) (4)で得られた式を通常の関数の積分として計算をして、確認完了。
(1)で通常の関数を緩増加超関数とみなして超関数として計算したのちに、(5)で通常の関数に戻して結論を得るというところがポイントと思われます。
おわりに
以上の全6回で、『数学セミナー 2018年3月号』の特集「フーリエ解析ことはじめ」のまとめが終わりました。
数学科時代に講義を受けて消化不良に終わった部分でしたが、10年以上経って概略は理解できたと思っています。