7931のあたまんなか

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特集「間違いから発展した数学」~『数学セミナー 2018年9月号』読書メモ

数学セミナー 2018年9月号』の特集は「間違いから発展した数学」です。

数学での間違った証明や命題が新しい理論などを生んだ例が7つ *1 の記事で説明されています。

間違いの意義と創造性

科学全般で使われる言葉のセレンディピティパラダイムシフトについて、数学ではどのような例があったかが説明されています。

具体的には、ユークリッド『原論』に始まり、ユークリッド幾何学を経由して、数学基礎論に至る道筋が書かれています。

平行線公理

ユークリッド『原論』の第5公準(平行線公理)を他の公準から証明しようとする試みがあったことはよく知られていると思います。

その中で起こったユークリッド幾何(双曲幾何)の誕生について書かれています。

関連した話題が『数学ガールポアンカレ予想』第4章に書かれています。

wed7931.hatenablog.com

また、『数学セミナー』2017年4月号~2018年3月号で連載されていた足立恒雄さんの「よみがえる非ユークリッド幾何」も参考になりそうです。 *2

関数の連続性についてのコーシーの誤り ― 反例が導いた厳密な概念

(現代の)解析学でよく知られた次の定理に関する話題です。

区間  I 上の連続関数の列  \{ f_n(x) \}_{n=1,2,\dots} を考える。 I 上の関数  f を、 各  x \in I に対して  f(x) = \lim_{n \to \infty} f_n(x) で定義する。
このとき、関数列  \{ f_n \}区間  I 上で関数  f一様収束するならば、  f I で連続である。

この一様収束という条件がどのような議論により導かれたかが説明されています。

ポアンカレ予想

最初のポアンカレ予想ホモロジーを使った主張でしたが、議論を進める中で誤りであることがわかり、基本群を使った今日のポアンカレ予想になりました。

この記事では、以下のことが書かれています。

最後の節に書かれている論文で予想を述べる重要性も勉強になりました。

ルベーグの間違いと記述集合論の誕生

ルベーグによるボレル集合に関する誤った命題から記述集合論が生まれた経緯が書かれています。

σ-代数、ボレル集合、ディリクレ関数 *4 など、自分が忘れていたことを思い出させてくれました。

間違いと真理 ― 解析学集合論の場合

自分にとって土地勘がない分野なので読むのがややしんどかったです…。

キーワードは、超準解析/選択公理/ZFC集合論/無限小などでしょうか。

印象的な言葉はこれでした。

古典的な(つまり20世紀中盤くらいまでの)解析学はすべてZFCの中に余裕で展開できると断言できます. [本文より引用]

4色定理の証明 ― 小さな誤りから大きな問題への道

4色定理の「証明」が1879年に出されましたが、約10年後にこれが誤りであると指摘されました。

この誤った証明がどのようなものだったかが、「6色定理」と「5色定理」を使って説明されています。

*1:4色定理の記事も含めています。

*2:私自身は第3回くらいまで読みました。

*3:次の説明がとても印象的でした。「基本群  \pi_1 (X,b) を可換群化したもの,すなわち商群  \pi_1 (X,b) / [ \pi_1 (X,b) , \pi_1 (X,b) ] を1番ホモロジー H_1(X) とみなすことができる.」 ※  [ G,G ] は群  G の交換子群。

*4:有理数に対して1、無理数に対して0を返す関数