7931のあたまんなか

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特集「体とはなにか」 ~ 『数学セミナー 2018年10月号』読書メモ(前編)

数学セミナー 2018年10月号』の特集は「体(たい)とはなにか」です。

数学セミナー 2018年 10 月号 [雑誌]

数学セミナー 2018年 10 月号 [雑誌]

大学数学科時代に体論やガロア理論の講義を受けましたが、十分に理解できないままでした。

卒業後に数学ガールガロア理論を読んで、ガロア理論や方程式の可解性をようやく理解しました。

数学ガール/ガロア理論 (数学ガールシリーズ 5)

数学ガール/ガロア理論 (数学ガールシリーズ 5)

今回の特集を読むことで、有限体p進数体などの概要がわかりました。

ここでは、特集内の7つの記事のうち、前半の3つの記事の内容をメモします。

体とはなにか

体の歴史

四則演算と変数の記号化との関係

  • ヴィエトの業績
  • 森田真生『数学する身体』の第二章 計算する機械 - 2 記号の発見 に関連した内容が書かれている。

数学する身体 (新潮文庫)

数学する身体 (新潮文庫)

ガロア理論で体をみる

実数体を拡大した複素数体の考え方

  • 複素数体  \mathbb{C} :実数の中で解を持たない2次方程式  x^2 + 1 = 0 の根  i = \sqrt{-1} を、実数体  \mathbb{R} に添加して拡大した体
  • 体の拡大  \mathbb{C} / \mathbb{R} の拡大次数は2。(★1)
  • 複素共役写像  \sigma : \mathbb{C} \ni \alpha \mapsto \bar{\alpha} \in \mathbb{C} を考える。
    •  \mathbb{R} \sigma の不変体である。
    •  \sigma^2 は恒等写像なので、  \sigma の位数は2。
    •   \{ \sigma , \text{恒等写像} \} は位数2の群をなす。(★2)
  • 以上により、(★1)と(★2)が関係づけられる。

代数方程式の分解体とガロア拡大

  • 代数方程式有理数係数の多項式=0
  • 方程式の分解体:代数方程式を解くのに十分な拡大体
    • 言い換えると、方程式の根がすべて含まれる拡大体
    • 分解体までの拡大をガロア拡大という。 *1
  • 例えば、  x^3 - 2 = 0 の根は  \sqrt[3]{2}, \  \sqrt[3]{2} \omega, \ \sqrt[3]{2}\omega^2 の3つ。ここで、  \omega = (-1+\sqrt{3}i)/2 (1の3乗根の1つ)。
    •  \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}) はすべての根を含まない。
    •  \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}, \omega) はすべての根を含むので、  x^3 - 2 = 0 の分解体となる。
  • 根同士の置換全体がなす群 *2 の部分群の性質を調べることで、方程式の可解性(四則演算と冪根で解く)を調べることができる。
  • なお、拡大  \mathbb{C} / \mathbb{R} x^2+1=0 の根である虚数単位を具体的に与えられる必要を消し去った。
    • つまり、  \bar{i} = -i だが、 i -i のどちらかを考える配慮は不要になった。
    •  \omega \bar{\omega} = \omega^2 も同様。

ギリシャの三大作図問題と正多角形の作図問題

wed7931.hatenablog.com

  •  n 角形が作図できるためには、  n素数のときは  n=2^{2^m} +1 の形でなければならない(2次拡大の系列を作れなければならないから)。
  • 本文では、正17角形が説明されている(上の  m=2 の場合)。

代数体

  • 代数体:代数方程式の根をいくつか添加して得られる  \mathbb{Q} の拡大体
  • 整数や有理数の問題を、代数体に一般化して考えると有効なことがある。

単位円上の有理点を求める問題から広げて考える

問題1:  x^2 + y^2 =1 を満たす有理数  x,y を求めよ。
  • 解法1:代数的解法
    • 『はじめての数論』 *3 第2章参照
  • 解法2:幾何的解法
    • 『はじめての数論』第3章参照
  • 解法3:体論を使った解法
    • ガロア \mathrm{Gal}( \mathbb{Q}(\sqrt{-1}) / \mathbb{Q}) が位数2のアーベル群(つまり巡回群)であることから、巡回拡大に対して成り立つヒルベルトの定理90を使って解く。
問題2:有理数  r>0 に対して、  x^2 + y^2 =r を満たす有理数  x,y を求めよ。
  • 問題1を一般化した問題。
  • 解法1と2による回答は易しくないが、解法3では鮮やかに解決できる。
解法3の説明
  •  \alpha \in \mathbb{Q}(\sqrt{-1}) のノルム  N(\alpha) = \alpha \bar{\alpha} の性質を使って、方程式を満たす有理数が存在するための  r についての必要十分条件を導ける(定理3)。
  • 証明の鍵は次の(1)と(2)の2つ。
  • (1) フェルマーの2平方定理素数  p について、  p = x^2 + y^2 を満たす整数  x,y が存在する ⇔  p=2 または  p \equiv 1 (\mathrm{mod} \ 4)*4
    •  x^2 + y^2 = N(x+y\sqrt{-1}) に注意。
    • 『はじめての数論』第25章参照
  • (2) 素因数分解の一意性ガウス整数がガウス素数の積に(単元倍を除いて)一意的に分解できる。 *5
    • ガウス整数 x + y\sqrt{-1} \ (x,y \in \mathbb{Z})
    • 単元:乗法的逆元を持つガウス整数。ノルムが1であることと同値で  \pm 1, \pm \sqrt{-1} の4つ。
    • ガウス素数ガウス整数  \beta で、  \beta を割り切るガウス整数が単元と  \beta の単元倍のみのもの
    • 『初めての数論』第34章参照
問題3:整数  d > 1 について、  x^2 + dy^2 = r を満たす  x+y\sqrt{-d} \in \mathbb{Q}(\sqrt{-d}) は存在するか。
  • これは問題2の一般化。なお、代数体  \mathbb{Q}(\sqrt{-d}) は虚2次体と呼ばれる。
  •  d=2 の場合は問題2とほぼ同様に解けるが、他の  d では同様に解けない場合がある。
    • (1)のように、ある整数で割った余りのように簡単に特徴づけできない。
    •  d=5 の場合は、(2)が成立しない。 *6

「類数」という概念からの広がり

  • 代数体  K に対して、類数と呼ばれる不変量  H_K が定まる *7 。これは  K における素因数分解の一意性が成り立たない度合いを示す。
  • 問題1と2の背景には、  H_{\mathbb{Q}(\sqrt{-1})} = 1 (⇔素因数分解の一意性が成立)がある。
  • ここから円分体 *8 、素イデアル分解、岩澤理論、保型形式、類体論につながる。

その他の話題

  • 問題「どのような素数  p \neq 23 に対して、  p=6x^2+xy+y^2 を満たす整数  x,y が存在するか?」と類数3の虚2次体  \mathbb{Q}(-\sqrt{23}) と保型形式の関係
  • 虚2次体  \mathbb{Q}(\sqrt{-d}) の類数が1になるのは、  d=1,2,3,7,11,19,43,67,163 に限る。
  • ガロアの逆問題: 有限体  G に対して、ガロア \mathrm{Gal}(K/ \mathbb{Q}) G と同型になる代数体  K は存在するか?
    •  G が可解群やいくつかの有限単純群(モンスター群を含む)の場合は解決済み。
    • 幾何的ラングランズ対応を使った手法が駆使されている。 *9

参考にした本

学生時代に代数学で主に使用した永尾汎『代数学を参考にしました。

代数学 (新数学講座 4)

代数学 (新数学講座 4)

後編に続く

後編のテーマは以下の通りです。

  • 有限体
  • p進数体、p進整数環
  • 量化記号消去
  • 整域から作られる体
  • 小さい体(素体)と大きい体(代数閉包)
  • 斜体

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*1:有限体上の拡大はすべてガロア拡大になる。

*2:これがガロア群?

*3:以下、次の本を指す。

はじめての数論―発見と証明の大航海 ピタゴラスの定理から楕円曲線まで

はじめての数論―発見と証明の大航海 ピタゴラスの定理から楕円曲線まで

  • 作者: ジョセフ・H.シルヴァーマン,Joseph H. Silverman,鈴木治郎
  • 出版社/メーカー: ピアソンエデュケーション
  • 発売日: 2001/08
  • メディア: 単行本
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*4:素数に関する相互法則の一例

*5:本文では、既約元分解の一意性と書かれている。

*6:例:  6 = 2 \cdot 3 = (1+\sqrt{-5}) (1-\sqrt{-5})

*7:イデアル類群というアーベル群の元の個数

*8:素数  p \ge 3 \zeta_{p} = \cos (2 \pi / p) + \sqrt{-1} \sin (2 \pi / p) について、代数体  \mathbb{Q}(\sqrt{\zeta_{p}}) のこと

*9:この本に出てくるんだろうか?

数学の大統一に挑む

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