7931のあたまんなか

数学/読書メモ/自分の考え方/水曜どうでしょう/交通関係(道路・航空)など、頭の中にあることを書き出しています。

特集「おおきな数」~『数学セミナー2019年7月号』読書メモ

数学セミナー 2019年7月号』の特集は「おおきな数」です。

「大きな数」に,人々はどうかかわってきたか

前半は、(小さい/大きいに限らず)人が数とどうかかわってきたかが書かれています。
後半は、天文学的数やアッケルマン関数(アッカーマン関数といった巨大な数の説明です。

9ページに書かれている「『天文学的数』よりも今は『組合せ論的な数』のほうが大きいものが知られてい」るという指摘に、なるほど!と思いました。

億が兆より大きい? - 大きな数の命名をめぐって *1

この記事の筆者は歴史学者の方で、「億」「兆」や「million」などの東アジアや西洋での数の命名法を歴史的見地から解説しています。

中国では、タイトルにあるとおりに「億が兆より大きい」とする記数法が100年ほど前まであり、これで書かれた文書が残されているようです。

グラハム数,ラムゼー理論,そして,役に立たない定数時間アルゴリズム

まず、記事の中盤に書かれているラムゼー理論における典型的な定理の主張を引用します。

大きな対象を定数個の部分に分解すると,その中のある部分には必ず規則的な構造が現れる.(19ページより引用)

この例として、以下のようなものが挙げられています。

  • グラハム数 および グラハム・ロスチャイルドの定理
    • 超立方体の2頂点を結ぶ線分の色分け問題における、ある数の評価に関連している。
  • ファン・デル・ヴェルデンの定理
    • 主張:十分大きな自然数 n に対して、集合 {1, 2, 3, ..., n} をある個数に分割したとき、ある部分には必ず等差数列が含まれる。
  • セメレディの定理
    • ファン・デル・ヴェルデンの定理を含む定理。
    • 本文の説明を借りると、ファン・デル・ヴェルデンの定理の密度版。

アッカーマン関数ヒルベルト

アッカーマン関数は、この連載の最初の記事で漸化式の形で定義されています。これを再帰という概念を使って再構成しています。

記事の中盤では、再帰と関係の深い順序数の観点で、アッカーマン関数を見直しています。

後半では、アッカーマン関数が現れる数学の例として、代数学におけるネーター性とヒルベルトの基底定理 *2 が説明されています。
この議論の中で、ヒルベルトの基底定理に似た計算量の問題が出てくるのが印象的です。

巨大数の世界

ふぃっしゅ数と呼ばれる巨大数を考案したふぃっしゅさん ( ふぃっしゅっしゅ 🐟🐠 (@kyodaisuu) | Twitter ) による記事です。

「関数を強化する装置を作る→その装置をさらに強化する装置を作る→…」という考えで、巨大数を構築しています。その中で順序数や計算可能性理論などの“本格的な”数学を使うことになるそうです。

最も興味深かったのは、このような巨大数が世界中にいるアマチュア数学愛好者の中から生まれ続けているという点です。
マチュア数学愛好者の1人として、とても楽しい活動だろうというのは手に取るように想像できます!

無限の数 - 順序数・基数・巨大基数

集合論で扱われる巨大基数について、整列集合や順序数、可算性、連続体仮説などの準備をしながら説明をしています。

この中で印象的だったのは、測度論との関係が出てきているという点です。
測度論がσ-加法性のような集合論の言葉がベースに構成されることを考えると自然なことですが、自分の中ではそれらがうまく結びついていなかったので、よい復習になりました。 *3

参考資料

セメレディの定理

連載内の3本目の記事に出てくるセメレディの定理は、以下のブログ記事で詳しく扱われています。
integers.hatenablog.com

順序、可算性、再帰など

教科書としては、『集合・位相入門』(松坂和夫)が有名です。

集合・位相入門

集合・位相入門

再帰性については、数学ガールゲーデル不完全性定理』(結城浩でも扱われています。

数学ガール/ゲーデルの不完全性定理 (数学ガールシリーズ 3)

数学ガール/ゲーデルの不完全性定理 (数学ガールシリーズ 3)

巨大数論

連載内の5本目の記事を書いたふぃっしゅさんの著書です。PDF版が無料で読めますが、内容が濃く、無料とは思えないクオリティです!
gyafun.jp

*1:個人的には、本題とは外れますが、記事内で示されている19世紀の日本の英和辞典の写真にも、心が惹かれました。

*2:ヒルベルトの基底定理:体上の多変数多項式環の任意のイデアルは有限生成である。(体より広く、可換ネーター環でもよい。)

*3:σ-加法性は、新井仁之『ルベーグ積分講義』の読書メモとして、私のブログの中でも扱っています。また、34ページに出てくる完全集合は、『ルベーグ積分講義』の178ページに出てきます。 wed7931.hatenablog.com

特集「微分方程式の質問箱」~『数学セミナー2019年6月号』読書メモ

数学セミナー 2019年6月号』の特集は微分方程式の質問箱」です。

大学2年時に常微分方程式の講義があり、いろいろな解法を勉強しましたが、なかなか頭に入らなかった記憶があります。

頭に入らなかった理由は「解ける微分方程式は非常に少ないのに、特殊な形 *1微分方程式の解き方を勉強して、どんな意味があるんだろう?」という疑問があったからだと思います。

今回の記事を読んで、微分方程式を解く」の意味を広く解釈することで、疑問が少し解消できたように感じています。

常微分方程式の求積

この記事で、私の中の「微分方程式を解く」という概念が変わりました。

本文では、変数分離形の微分方程式  \frac{dy}{dx} = \frac{f(y)}{g(x)} を解くことを考えています。

主題は、「  \frac{1}{f(y)} dy = \frac{1}{g(x)} dx というように  dx dy を分離する形で変形して両辺を積分して解くこと(求積法)が、なぜ正当性を持つか?」です。

それに対する答えとして「求積法は探すときの方法であると理解して,それが正しいことの証明は別途行うのである.」(10ページより引用)と書かれています。
私にとって、非常に納得感がありました。

微分方程式 解ける?解けない?

この記事の冒頭は、私が疑問に思っていた「解ける微分方程式は非常に少ないのに、…」と全く同じ質問から始まります。

ポイントは以下の4点です。

  • (0) 解の存在と一意性の定理を証明する。
  • (1) 解を構成する関数を初等関数より広げて考える。
    • 例:リウヴィルの操作による解の構成、特殊関数、(梅村の)古典関数
  • (2) (0)の保証のもとで、関数列の構成や冪級数などを使った解をとにかく作る。
    • 例:ピカールの逐次近似法、コーシーの折れ線の方法
  • (3) 解を書き下せない場合は、解関数の性質を調べる。
    • 「本当は何を知りたいか」を考える。

C は原始関数につくアクセサリーじゃない

不定積分を求めると必ずついてくる積分定数  C に関する話題です。
改めて問われると、積分定数が何かはきちんと答えられないなと考えさせられました。

私がハッとさせられたのは、積分定数区間上で一定値をとる定数関数である *2 ということです。

不定積分が関数であることを考えると、本文に書かれている「不定積分=原始関数+定数関数」という式のほうがしっくりきます。

このことを理解するために、  \int \frac{1}{x} dx = \log |x| + C \ (x \neq 0) の絶対値記号が意味するところが詳しく説明されています。

後半では、  C= \infty を許して微分方程式の解を記述するという、私は考えたことがなかった議論が出てきます。

微分方程式の解の存在と一意性

リプシッツ連続性と解の一意的存在定理 *3 の関係が書かれています。

微分積分学の基本定理平均値の定理の重要性が改めてよくわかります。 *4

偏微分方程式の導出と解法 ― 熱方程式を例として

これまでは常微分方程式の話でしたが、この記事は偏微分方程式について書かれています。

熱方程式をテーマとして、以下の2つが書かれています。

微分方程式は身の回りにどのように活かされているか

微分方程式が使われる以下のような例が説明されています。

  • 放射性物質半減期
    • 放射性炭素による年代測定、(応用例として)人口減少
  • 共振現象
    • 水風船、建築物の耐震設計、アナログ式ラジオとRLC回路
  • 弦の振動

ちょっと寄り道ですが、式を見るときに次元を意識するという指摘も気に入りました。

広がる微分方程式の世界

※『数学セミナー2019年7月号』に書かれていますが、こちらのブログ記事で紹介します。

前半では、簡単な微分方程式の例として、2つが挙げられています。

  • 力の釣り合い
    • 例:回転中の液体、懸垂線
  • 統計的量の記述(膨大な離散量を連続量で近似する)

後半は変分問題について書かれています。

微分方程式を満たす関数を動かして、汎関数(関数に実数を対応させる写像)が最大最小になる関数を求める問題です。

具体例として、フェルマの原理から導かれる光の屈折(スネルの法則)などが挙げられています。

多くの変分問題に適用できるオイラー-ラグランジュ方程式に関する記載もあります。

*1:変数分離形、同次/非同次線形微分方程式など。

*2:19ページより引用

*3:定理の呼び名は本文からの引用です。非常にうまい言い方だなと感心しました。

*4:平均値の定理の重要性を感じたときのことは、以下の記事でも書いています。 wed7931.hatenablog.com

*5:数学ガールポアンカレ予想』第10章に出てくる熱方程式がどのように導出されるかが詳しく書かれています。 wed7931.hatenablog.com

*6:フーリエ級数についての過去の記事です。 wed7931.hatenablog.com

『宇宙と宇宙をつなぐ数学―IUT理論の衝撃』読書メモ

加藤文元さんの『宇宙と宇宙をつなぐ数学―IUT理論の衝撃』

IUT理論(宇宙際タイヒミュラー理論は、ずーっと気になっていたテーマだったので発売後すぐに読み始めました。

IUT理論についてうっすら知っていたこと

この本の読書メモを書く前に、IUT理論について私がこれまでに知っていたことをまとめておきます。

原論文はもちろん読めなかったが、いくつか気になる用語があった。

IUT理論に関する論文は、提唱者である望月新一教授のサイトで公開されています。

www.kurims.kyoto-u.ac.jp

論文は試しに読んでみようと思いましたがダウンロードしてほぼ終わりという感じでした。(あたりまえ)
また、関連する講演資料などもざっと目を通しましてみましたが、何が何だかわからず…。

シアターや通信など、一見数学で使うとは思えない用語があるんだなというのはわかりました。

著者の加藤文元教授のIUT理論に関する講演を見た。

この本の著者の加藤文元教授が、MathPower2017というイベントで行ったIUT理論に関する講演の動画は見たことがありました。

www.nicovideo.jp

この講演で印象的だったのは「たし算とかけ算の関係は複雑すぎてよくわからない!」ということ。

言葉自体は非常に印象的でしたが、何を意味しているかはわかりませんでした。

ABC予想はIUT理論から得られる帰結の1つである。

ABC予想そのものはIUT理論が話題になるまでほとんど知りませんでした。

IUT理論が出てきたときに「ABC予想が解決された!」とニュースになりましたが、そのニュース自体はあまり注目していませんでした。

おそらくIUT理論から得られる系の1つなんだろうなと思っていました。
そして、ニュースになった理由は「ABC予想」という用語自体がキャッチーだったからだろうと。

この本でIUT理論の雰囲気はよくわかった!

上に書いたようにIUT理論についての断片的な知識がありましたが、この本を読んでそれらが頭の中でつながって、IUT理論の雰囲気がよくわかりました。

「たし算とかけ算の関係は複雑すぎてよくわからない!」という言葉のこころ *1 が理解できたことが理解の突破口になったように思えます。

IUT理論について、この本では中学数学+αの知識で読めるくらいに非常にやさしく書かれており *2「これで自分もIUT理論がわかるはずだ!」と錯覚してしまうほどでした。

数学とは?数学者は何をしているか?が効果的に書かれている。

この本では単にIUT理論という数学的内容だけを説明しているわけではなく、「数学とは?」「数学者は何をしているか?」がとても詳しく書かれています。
「詳しく」というよりも「効果的に書かれている」と言った方が適切かもしれません。

IUT理論の概要を解説するという道具を使って、「数学はどういう学問か?」を説明しているようにも思えます。

私は大学院まで数学を専門にして勉強してきましたが、数学はどういう学問かをうまく理解できないまま卒業したので、とてもいい気づきが得られました。

数学そのものに興味がある方におすすめの本です。

いろいろな数学の概念をわかりやすく説明している。

高校・大学で習うような数学の概念のわかりやすい説明も、この本の特徴です。
私にとっては既知の概念が多かったですが、こんなにわかりやすく説明できるのか!と感動しました。

特に、に関する説明は非常に素晴らしいです。

最後に:対称性は数学で本質的に重要?

この本の前に読んだのは、E.フレンケル教授の『数学の大統一に挑む』でした。
読書メモは以下のブログに書きました。

wed7931.hatenablog.com

『数学の大統一に挑む』では、量子物理学では対称性が重要な役割を果たすことが書かれています。

このブログで紹介した『宇宙と宇宙をつなぐ数学―IUT理論の衝撃』でも、2つの数学の舞台の間で対称性を伝え合うことをベースにIUT理論が説明されています。

2冊連続で、対称性が重要なキーワードとして出てきました。

やはり数学では、「対称性」が本質的に重要なものなのかもしれません。

(2021/8/1追記) ABC予想とIUT理論のわかりやすい説明が『Newton』に

『Newton 2021年8月号』で、ABC予想とIUT理論が特集されました。

Newtonらしく、視覚的にとてもわかりやすく書かれています。

個人的には、ABC予想が成り立つことが“自然に思える”ことの説明が気に入っています。(27ページ)

*1:第4章までを読めばわかります。

*2:大学数学科の2年生くらいで習う「群」の知識もあるといいですが、第7章で非常にわかりやすく説明されているので大丈夫です。

『世にも美しき数学者たちの日常』読書メモ

二宮敦人さんの『世にも美しき数学者たちの日常』は、「小説幻冬」への連載開始から私のTwitterタイムライン上で話題になっていました。連載をまとめた単行本の出版直後に読んでみました。

世にも美しき数学者たちの日常

世にも美しき数学者たちの日常

数学者が考えていることが意外だった。

私は大学院まで数学科で数学の勉強をし、就職後約10年のブランクを経て、趣味として改めて数学の勉強を再スタートしました。

学生時代は周りに数学者はたくさんいましたが、数学を教えてもらう以外の接点はあまりなかったと思います。また、新しい定理を発見したことはなく、すでに構築済みの数学理論を追うことが精いっぱいでした。

この本を読むと、日常的に数学をして新しい定理を発見する数学者の意外な考え方が見えてきました。

  • 数学が難しくなりすぎているのかもしれない。
  • 問題を作る(良い予想を作る)ことの大変さ
  • 数学者どうしの交流で研究が進む一方で、孤独とのたたかいもある。
  • 研究内容や研究の仕方に独自性を出すということ

これらは学生時代に身近に数学者がいたにもかかわらず気付かなかったことでした。

「数学とともに生活をする」。自分にも経験があった。

この本に出てくる数学者の言葉を見ていると、机に向かって必死に勉強するというよりも、数学とともに生活をしている様子が見て取れます。

そういえば、私にもそういう経験があったなぁと思い出しました。

学生時代に付き合っていた彼女(現在の妻)と一緒にいるときの話。なかなか解けずに頭の中で引っ掛かっていた問題の解決への道筋がひらめき、その瞬間に彼女そっちのけで机に向かって計算を始めて答えを出すことが何度かありました。

最初はそんな私の様子を不審がって見ていましたが、そのうち慣れていったようです。

数学者ではない数学を愛する人たち

この本では数学者だけでなく、「在野の探求者たち」と題して、数学者ではない数学を愛する人たちのインタビューも書かれています。

私もそのような人たちの端くれとして、大いに共感しながら読み進めました。

TwitterFacebookを見ていると、このような人たちは意外とたくさんいることがわかります。人によっていろいろな数学との接し方があり、私もそのような方たちと交流を進めることで刺激を受けています。

ちなみに、私の数学の接し方は以下のツイートのように表現できます。



最後に:書籍以外にもWeb上の記事も

この本の著者の二宮敦人さんと数学者である黒川信重先生と加藤文元先生の鼎談のWeb記事もあります。くだけた感じでとても楽しいお話です。

【前半】
www.gentosha.jp

【後半】
www.gentosha.jp

『数学の大統一に挑む』の数学部分をまとめてみた

私が学生時代に専門にしていたリー群の表現論が書かれているということを聞き、エドワード・フレンケル『数学の大統一に挑む』を読みました。

この本は、大きく分けて2つのことが書かれています。

1つは、旧ソ連で生まれ育ったフレンケル教授の半生と数学の研究について。
もう1つは、数学と物理(特に量子力学)の関係性をラングランズ・プログラムの説明をしながら描いています。

数学と物理の関係については、かなり専門的な部分まで踏み込んで書かれていて非常に興味を持ちました。

その内容を少しでも理解したいと思い、ノートを取りながら読みました。本文や注釈の内容を自分なりに整理し、手元にある数学書を調べながら書いてまとめました。

数学部分をメモしたノート

数学部分に興味がある方がいるかもしれないので、ノートの内容をこちらで公開します。 *1
ダウンロードはこちらから。

【キーワード】 ラングランズ・プログラム / 群の表現 / フェルマーの最終定理 / ガロア群 / 保型関数 / 調和解析 / リーマン面 / リー群 / 基本群 / ループ群 / 圏 / 層 / ラングランズ双対群 / モノドロミー / ゲージ群 / ゲージ理論 / 場の量子論 / 超対称性 / 有効理論 / シグマモデル / ターゲット多様体 / ヒッチン・モジュライ多様体 / ミラー対称性 / 超ひも理論

フレンケル教授の講義をYouTubeで見ることができます

NHKで放送されたフレンケル教授の講義『数学ミステリー白熱教室~ラングランズ・プログラムへの招待』YouTubeで見ることができます。

【第1回】
www.youtube.com

【第2~4回】
Mysteries of Math and the Langlands Program - Episode 2 - YouTube
Mysteries of Math and the Langlands Program - Episode 3 - YouTube
Mysteries of Math and the Langlands Program - Episode 4 - YouTube

これから読んでみたい本

『数学の大統一に挑む』を読んでから、数理物理学に興味が出てきました。

関連する本として、これから読んでみたい本がこちらです。私の本棚にはすでに並んでいます。

*1:本当はもっとまとめてから公開しようと思っていましたが、予想以上に負荷がかかりそうなので、手書きノートの段階で公開します。

特集「大学数学のキーポイント」~『数学セミナー 2019年4・5月号』読書メモ

数学セミナー 2019年4月号』数学セミナー 2019年5月号』には、特集「大学数学のキーポイント」が前篇・後篇に分けて書かれています。

大学数学の勉強の心構えや仕方、いろいろな数学分野のポイントが書かれています。

特に印象に残った内容について、この記事でまとめます。

数学書の選び方・読み方 *1

  • 教科書スタイルと自由形スタイルの使い分け *2
  • 同じテーマの複数の本を手に取って、自分に合うものを探してみる。
  • 読んでわからなければ、いったん寝かせることもあり。

線形代数微分積分を学ぶ理由 *3

数学的対象を「よくわかる」ものに近似して考えたい。

代数学をどう理解していくか *4

(1) 群・環・体の例は、小中学校から学んできた数(実数、整数など)で触れている。

  • 例:剰余環(例えば  \mathbb{Z} / 2 \mathbb{Z} )の最も身近な例は「奇数+偶数=奇数」「奇数×偶数=偶数」などの関係。

(2) 代数的対象の具体例を考えると、解析学の命題を代数学の言葉で言い換えることができ、代数学や層の理論で考察を進めることができる。

  • 例:領域上の正則関数全体をなす環を考えると、複素関数論での一致の定理の言い換えができる。

解けない微分方程式との付き合い方 *5

様々な現象をモデル化して微分方程式で定式化することはよく行われるが、具体的に解ける微分方程式はきわめて少ない。そのため、「具体的な解を構成できないからあきらめる」ではなく、微分方程式の解の性質を知ることが目標になる。
そのアプローチはいくつかある。

  • (1) 力学系理論=“幾何学的に”解く
  • (2) 数値解法=“計算機で”解く
  • (3) 解が存在する関数空間を考える。

確率変数の見方 *6

高校までで学んだ数を「固い数」と考えると、確率変数で指定される1点はゆらぎを持った「やわらかい数」と考えることができる。

そう考えると、確率統計で扱う内容が見通しよく見えるかもしれない。

複素関数での様々な定義や定理の見方 *7

(1) 実関数の微分可能性と比較すると、複素関数の正則性は非常に強い条件である。

(2) 複素関数では「任意の点で連続だが、任意の点で微分不可能な関数」を得ることは容易(例:  f(z) = \overline{z} )。実関数では難しい(例:ワイエルシュトラスの関数、高木関数)。

(3) コーシー-リーマンの方程式の導出:実軸上の点  h h \to 0 とした極限と、虚軸上の点  ih h \to 0 とした極限が一致することを考えればよい。

(4)  e^{iz} = \cos  z + i \sin  z を考えると、実関数では指数関数が単調増加関数だったが、複素関数では周期  2 \pi i周期関数になる。

(5) ある条件で単純閉曲線上での積分値が 0 になることを主張するコーシーの積分定理は、閉曲線上の1点  a から  a までの積分が 0 であると考えると、実関数では当然に成り立つ  \int_{a}^{a} f(x) dx = 0 との類似に見える。

(6) リュービルの定理 *8 の見方:実関数では  \sin  x 有界だが、複素関数  \sin z は非有界である(虚軸上の値  \sin  (iy) は非有界 *9 )。

(7) 一致の定理 *10 の見方:正則関数は正則性を保ったまま一部分の値だけを変えることは不可能である。実関数では容易に得られる。

物理で使う数学 *11

(1) 物理学の習得に向けては「物理現象の記述に必要な数学」をあらかじめ学ぶ。 *12

(2) 物理を理解するためには、分野によっては偏微分方程式微分形式/微分幾何学リー代数など多岐にわたる。すべてを詳しく知らなければならないというわけではない。

*1:数学セミナー 2019年5月号』の「数学書の選び方・読み方」より

*2:個人的には、自由形スタイルの数学書を多く読みたいという思いがある。

*3:数学セミナー 2019年4月号』の「線形代数」と「微分積分で学ぶこと」より

*4:数学セミナー 2019年5月号』の「群と環 ― 透き通った言葉として」より

*5:数学セミナー 2019年5月号』の「「微分方程式論」の道しるべ」より

*6:数学セミナー 2019年5月号』の「時代が求める確率統計」より

*7:数学セミナー 2019年5月号』の「複素関数論入門」より

*8:[tex: \mathbb{C} 全体で有界な正則関数は定数関数である。

*9: y \ge 0 では  | \sin  (iy) | \ge e^y / 2 で、  y \to \infty とするとわかる。

*10:定義域内に集積点を持つような可算点列上で値が一致すれば、定義域全体で関数が一致する。

*11:数学セミナー 2019年5月号』の「物理数学」より

*12:私は数学科出身なので、実態はよくわかりません。

d次元ルベーグ測度~『ルベーグ積分講義』読書メモ

ルベーグ積分講義』(新井仁之 著)の読書メモ第4回です。

第Ⅰ部「面積とは何か」の最後のまとめです。

これまでの読書メモはこちらです。

今回は第6章「d次元ルベーグ測度」のまとめです。

一般の次元のルベーグ測度

第5章までで議論されてきた2次元実数空間  \mathbb{R}^2ルベーグ測度を拡張して、第6章では一般の  d 次元実数空間  \mathbb{R}^dルベーグ測度を定義します  (d = 1,2,\dots)

2次元で成立する各命題は、  d 次元でも同様に成立することが説明されています。

第6章の主張と第1~5章の主張の対応

第6章で説明されているいろいろな定義や定理は、第1~5章の定義や定理に対応しており、証明も同様にできます。

ここではその対応をまとめます。

第6章の主張 対応する第1~5章の主張 備考
定義6.1 定義1.2 基本直方体、基本立方体
定義6.2 定義2.1 ルベーグ外測度
定理6.3 定理2.16
定理6.4 定理3.2 ルベーグ外測度の劣加法性
定義6.5 例2.2 有界閉集合
定義6.6 定義2.7 ルベーグ内測度
定義6.7 定義2.10, 定義3.18 ルベーグ可測集合、ルベーグ測度
定義6.8 定義3.10 開集合
定理6.9 定理3.16'
開集合はルベーグ可測 系3.15'
閉集合ルベーグ可測 系3.9'
定理6.10 (1) 定理4.1
定理6.10 (2) 定理3.1' ルベーグ測度の完全加法性
定理6.11 (2)の条件 定義5.1 カラテオドリの可測性
定理6.11 定理5.5 ルベーグ可測とカラテオドリ可測が同値
系6.12 系4.3 等測核、等測核
定義6.13 命題2.11 (2) 零集合
系6.14 系4.4
定理6.15 定理4.5