メモをとる。ノートをとる。そして、共有してみる。
学校での授業や職場での会議など、いろいろなところでメモやノートをとる場面があります。
このメモやノートをどのようにとるか。何を書いて、何を書かないか。など、自分にとってはすごく気になることです。
というのは、自分が理解したことをどのように記録してその後に活用するかは、勉強や仕事での基本だと考えているからです。
メモやノートの書き方についてのこだわり
メモやノートに関する話題はTwitterでたまに出てきていて、自分の反応を含めてTwitterモーメントにまとめました。
このモーメントの中にある自分のこだわりや考え方を抜き出しておきます。
ノートは自分が理解できるように書くもの。なので、「ノート点」の必要性がわからない。
黒板に書かれた通りにノートをとるのは、中学2年くらいで無駄だと気付いてやめた。自分の頭のフィルターを通して、必要なことを整理して書く。結果的に自分にとってはきれいなノートになる。他人からどう見えるかは知ったこっちゃない。ノート点を採点する授業があるけど、今でも必要性がわからない。
— 7931 (@wed7931) May 13, 2017
高校生になると「ノートをコピーさせて」っていう同級生がいたけど、「先生が板書した通りじゃないけどいい?」といちいち断ってノートを貸してた。借りていた彼らは、コピーしたノートを見てどうやって勉強してたんだろう?
— 7931 (@wed7931) May 13, 2017
「黒板に書かれた内容を説明している教師の話を聞いて、大事だと思ったところを忘れないように書き留めておく作業がノートを取る」ということ。なので、ノートに書かれた内容は個人によって異なって当然。という考えだったので、評価のための「ノート提出」という行為が無駄に思えてしょうがなかった。
— 7931 (@wed7931) August 21, 2017
ノートのとり方を意識したのは中学校の社会の先生のおかげ
ノートの取り方の形式的な指導は小学校でよくあった。子どもからも「これはノートにどう書けばいいの?」と質問される。当時の自分もそんな質問をしていた。今思うとすごく些細なこと。中学校に入って、オリジナル形式でノートを取るようになった。社会の先生にほめられて、これでいいんだ!と思った。
— 7931 (@wed7931) June 3, 2018
ノートの罫線はそもそも必要なの?と考えることもある
「ノートの罫線は必要なのか?」と最近思う。書店でノートを見て、たくさん驚きがあった。大学ノートの横罫線の上に等間隔で点が打たれていて、図が書きやすくなっている(と思われる)もの。中学・高校レベルで教科ごとに様式が異なるノート。「メモの取り方がわからない」という気持ちが少しわかった。
— 7931 (@wed7931) June 3, 2018
数学の途中計算を「消さない」ことへのこだわり
ノートの隅に書く筆算は必ず残してた。答えを間違えたとき、その原因がわからなくなるので。高校以降は記述問題の途中で間違いに気付いたら、消しゴムで消さずにでっかくバツを書いてた。その方がいい。 / 補助計算を消す子: 遊学塾-興味津々- https://t.co/sLlxLSCJAO
— 7931 (@wed7931) May 13, 2017
メモを共有するワークショップ
このように、自分はメモやノートへのこだわりが強いので、他の人がどのようにノートをとっているかがとても気になります。
良くない行動ですが、他の人のメモを覗いてみたいと考えることもよくあります。
ということを考えていると、複数人でメモを共有するワークショップがあるということを知りました。
第1回がすでに行われていて、そのレポートがこちらに書かれています。
とても気になる内容で、できれば一度参加してみたいと思います。
おまけ:大学の数学の講義のノートのとり方は例外でした。
最初に、頭のフィルターを通してノートをとることを強調しましたが、例外が1つあります。
大学での数学の講義です。
私が所属していた理学部数学科の講義は、先生が黒板に定理とその証明や計算を90分間書き続けることがほとんどでした。
指定される教科書どおりに講義が進むことはほとんどないので、黒板に書かれた内容をノートに書き写す必要があります。
また、内容が非常に高度で、(私のレベルでは)頭のフィルターを通して理解する余裕がありません。
なので、数学の講義だけは板書を必死に書き写すことに専念しました。
小学生:板書をそのまま写していた。
— 7931 (@wed7931) 2018年4月8日
中学生:板書+わからないところや興味があるところをメモ
高校生:板書はあくまで参考。授業を聞きながら、ポイントを把握して自分用ノートを作る。
大学生:最初は高校時代を踏襲。数学科に進んで、板書スピードが速く思考が追いつかず、板書を写すことに専念。 https://t.co/qXmcc7wByS
シローの定理とその応用
前回に続いて、学部時代に書いたレポートを公開します。
なお、前回は有限鏡映群とChevalleyの定理でした。
今回は「シローの定理とその応用」
大学院入試のために提出したレポートです。これを参考に口頭試問も行われました。
当時は主に代数系を中心に勉強しており、次の2つの本の有限群に関する内容をまとめたものになります。
- 作者: 三宅敏恒
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第1章の概要には、次のようなことが書かれています。
Legendreの定理より, の任意の部分群 に対して, だから, の位数は の位数の約数になっている.しかし,4次交代群 (位数12)が位数6の部分群をもたないように, の任意の約数を位数とする部分群が必ずしも存在するとは限らない.
の位数が であるときを考える.このとき,位数 の の部分群( -部分群という)は必ず存在する(定理4).Sylowの定理(定理7)は,位数が の部分群(このような部分群を の -Sylow群という)についての定理である.Sylowの定理は有限群を考える上で基本的なものである.
このレポートでは,Sylowの定理を両側分解の考え方で証明したあと,Sylowの定理の応用として,4次対称群 と5次交代群 の -Sylow群について考える.最後には,位数 ( はある条件を満たす素数)の群が巡回群であることを示す.
キーワード:有限群、両側分解、シローの定理、p-部分群、p-シロー群、4次対称群、5次交代群
修士時代に専門としていたLie群の表現論の印象が強いのですが、学部時代は有限群のことも考えていたんだなと思い出しました。
こちらからダウンロードしてください(PDF)
問い合わせなどはこちらへ
自分で書いたレポートですが、忘れてしまっている内容がたくさんあります。なので、質問されても回答できないことが多いと思いますが、何かありましたら以下のURLからご連絡ください。
有限鏡映群とChevalleyの定理
先日の記事で、私の修士論文を公開しました。
このファイルがあったフォルダを見てみると、学部時代に書いた2つのレポートが見つかりました。そのうち1つを公開します。
タイトルは「Chevalleyの定理」
学部4年のセミナーで読んだ J. E. Humphreys 『Reflection Groups and Coxeter Gruops』の内容をまとめたものです。
Reflection Groups and Coxeter Groups (Cambridge Studies in Advanced Mathematics)
- 作者: James E. Humphreys
- 出版社/メーカー: Cambridge University Press
- 発売日: 1992/10/01
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Chevalleyの定理をざっくり言うと、有限鏡映群を多項式環に作用させたときの不変多項式についての定理です。
レポートの冒頭には次のように書かれています。
次元Euclid空間 上にessentialに作用する有限鏡映群 を,多項式環 に作用させることを考える.
このとき, -不変多項式全体は, 個の 上代数的独立な斉次多項式で -代数として生成される―というのがChevalleyの定理である.
このレポートでは,まず有限鏡映群とその多項式環への作用について考え,Chevalleyの定理を証明する([Humphreys] §3.1~§3.5).そのあと,いくつかの結果と例を挙げる.
キーワード:有限鏡映群、ルート系、不変多項式、Hilbertの基底定理、Chevalleyの定理、基本不変式、n次対称群、A_n型の有限鏡映群(Weyl群)、B_n型とD_n型の有限鏡映群
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自分で書いたレポートですが、忘れてしまっている内容がたくさんあります。なので、質問されても回答できないことが多いと思いますが、何かありましたら以下のURLからご連絡ください。
不定符号直交群の表現論 ~ 修士論文を公開します。
大学院数学専攻を卒業してから改めて数学の勉強をしていると、「これ、自分の修士論文で書いた内容だ!」と気づくことが多く出てきました。リーマン多様体、フーリエ変換、緩増加超関数など…。
修士時代は十分に理解できずにやっていた内容が、卒業して10年以上経ってからようやくわかってきた感じです。
そして、Twitterで数学関係の方と交流していると、「大学院でどのような研究をしていたかを知りたい」という声を聞くこともあります。
というわけで、2005年に私が書いた修士論文を公開したいと思います。 *1
自分が一生懸命勉強した数学の集大成を残しておきたいという気持ちもありますので。
テーマは不定符号直交群の表現論
タイトルは『不定符号直交群の多様体への共形的作用とユニタリ表現』 *2 です。
概要と本文はこちらからダウンロードしてください。
なお、概要の全文は以下に記載しています。 *3
概要
この論文では,不定符号直交群 の極小ユニタリ表現とその一般化であるユニポテント表現について概観する.まずは極小表現とユニポテント表現に関して簡単に解説する.
一般にLie群の表現に関しての1つの課題として,既約ユニタリ表現を分類することが挙げられる.簡約Lie群に関しては,1980年前後に既約表現の分類は完成しているが,各々の既約表現がユニタリ内積をもつかどうかに関しては,現時点においても一部の単純Lie群と特別な場合を除いて,すべて理解できているとはいえない.少なくともこの論文で扱う に関してはわかっていない.
この既約ユニタリ表現を理解するための指導原理として軌道理論(orbit method)がある.例えば,Heisenberg群のような単連結べき零Lie群 の場合には の双対空間 上の余随伴軌道と既約ユニタリ表現の同値類に1対1対応があることが証明されている.半単純Lie群の場合にこのような対応があるかはわかっていないが,べき零軌道(半単純Lie環のべき零元を通る余随伴軌道)に対応する既約ユニタリ表現(これをユニポテント表現という)を構成することが重要であると認識されている.
特に極小なべき零軌道に対応する既約ユニタリ表現を極小表現という.表現の“大きさ”を測るGelfand-Kirillov次元という概念があるが,極小表現はこのGelfand-Kirillov次元が最小になっている.この論文で構成する のユニポテント表現 のGelfand-Kirillov次元は である.多くの簡約群は極小表現を持つことが知られていて,実際に構成されている.この論文では のいくつかのユニポテント表現と極小表現を扱う.ただし, が奇数かつ のときには は極小表現を持たないことが知られている.
次に不定符号直交群の極小表現の研究について,歴史的な流れを大まかにみてみよう. の場合について,Kostant が最初に極小表現を構成した.その後Binegar-Zierauが, が偶数かつ である一般の について極小表現を構成した.本論文中の記号でいえば, にあたるものである.これは光錐上の斉次な 級関数でLaplace作用素の核となる空間の上に表現を構成したものであり,既約かつユニタリな表現を与える.
そしてこの極小表現の拡張として,Zhu-Huangは一般化された光錐上に有限個のユニポテント表現 を構成した.ただし である( はGauss記号). のときは極小表現になることは上で述べた. のときは極小表現にはならないが,
既約ユニタリ表現を与えることがtheta対応の議論を使って述べられている.さらに が退化主系列表現の部分表現とみなせることも指摘している.
近年Kobayashi-Ørstedが,極小表現を擬Riemann多様体への不定符号直交群の共形的作用を使ってYamabe作用素の核空間上に表現が構成できることを用いて構成している.
冒頭に述べたように,この論文では不定符号直交群の極小ユニタリ表現といくつかのユニポテント表現について概観する.論文中で説明したことを(i)~(iii)の3つに分けて紹介する.なお,(i)はZhu-Huang,(ii), (iii)はKobayashi-Ørstedの手法に従って議論した.
(i) 表現 の構成
を を満たすとする. , を一般化された光錐とする. 上の 級関数で で定められる次数が 次斉次なものであり符号が により制御されるもの全体を とおく. には左から が自然に作用しており, は -加群になる.このような関数について -不変なLaplace作用素たち が矛盾なく定義できて, に含まれる関数のうちですべての の核になるもの全体を と書く.この空間は の部分 -加群になり,既約ユニタリ表現を与える.またこの表現は の極大放物型部分群を使って,退化主系列表現の部分表現とみなすことができる.
この論文はどうやら物理に関係しているらしい?
Twitterなどでの情報を見ていると、この論文の内容は物理にも関係しているようです。
大学院時代に読んだある論文で「水素原子がなんとかかんとか」と書いてあって、「ふ~ん」と思った記憶はあります。
また、私の指導教官の著書を改めて読んでみると、やはり物理に関係していそうだということがわかってきました。
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この論文をもう一度理解し直す中で、物理との関係も理解できればと思っています。
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自分で書いた論文ですが、忘れてしまっている内容がたくさんあります。なので、質問されても回答できないことが多いと思いますが、何かありましたら以下のURLからご連絡ください。
特集「絵のある数学」まとめ ~ 『数学セミナー 2018年7月号』読書メモ
『数学セミナー 2018年7月号』の特集は「絵のある数学」です。
たくさんの絵や図を使って、どのような数学(主に幾何学)が展開されているかが紹介されています。
私自身は幾何学に対する苦手意識が強いですが *1 、図を多用して説明されているので比較的わかりやすかったです。
それぞれの記事で興味深かった内容をまとめます。
絵や図を意識的に多用する数学:直観幾何学(伊藤仁一さん)
まずは、直観幾何学という言葉が説明されています。このような学問分野はありませんが、次のように説明できるようです。
ソフトウェアを使った幾何の定理の再発見
動的幾何ソフトウェアを使って、幾何の定理の再発見や新たな性質を見つけ出すことができるようになりました。
既知の定理(Steinerの定理、Lambertの定理など)がソフトウェアによって発見することができており、論文にまとめられています。また、新たな予想も発見されています。
二次曲面の構成
1つ目は、二次曲面は円織面や直角双曲線織面と言えることが説明されています。これは本文中にある図を見ると、とてもよくわかります。
2つ目は、楕円および楕円面の描き方です。
楕円の描き方として、2つの焦点に糸の両端を固定させてピンと張った状態で鉛筆を滑らせる方法を高校で学習します。
これを先に進めて、楕円面 、さらに高次元の楕円面の描き方をどう考えるかが説明されています。
結び目と曲面(小沢誠さん)
2つの図形が連続的な変形で移り合うか?
閉曲面に含まれる閉曲線を考えて、2つの図形が連続的な変形で移り合うかを考えています。 *2
『数学セミナー 2017年12月号』のホモロジーの特集でも似たような話がありました。
2つの結び目が空間内の連続的な変形で移り合うか?
これを判定するために、結び目を“太らせた”正則近傍と結び目の外部と呼ばれるものを考えるそうです。
言葉だけでは説明が難しいですが、本文にある図を見るとおもしろい図形です。
このほかの結び目についての多くの話題について書かれています。(自分には少し難しかったです…)
なんとなくフラクタルな展開図(上原隆平さん)
この記事の内容が、自分にとっていちばんグッときました。
というのも、これまで慣れ親しんでいた(つもりの)展開図に関する意識が変わったからです。
立方体の展開図は本当に11種類?
立方体の展開図は小学校で学習します。その中で、展開図は1種類だけでなく、複数あることを学びます。数学に詳しい人であれば、立方体の展開図は11種類あるということを聞いたことがあると思います。
これに対して、筆者の上原さんは「ちょっと異論がある」と述べています。
ここで数秒立ち止まって考えてみると、確かにそうだなと思いました。というのはこういうことです。
- 面にハサミを入れる展開図を考えると、展開図は無数に存在する。
- 折り線を表すために使う破線はそもそも必要なのか?
図で書くとこのようになります。
そもそも展開図の「定義」とは?
本文では、小学校で習う展開図は次の3つの条件を満たすものであるとしています。
- (1) 重なりなく平坦に広げられること
- (2) ひとつながりの多角形であること
- (3) 立体の辺に沿って切ること
そして、条件(3)を外し、(1)と(2)の条件を満たす展開図を考えることで、豊穣な世界が広がるとしています。
クライン群の風景(和田昌昭さん)
まず、幾何学における群とは、「図形の繰り返しや対称性」であると書かれています。具体的には、次のようなものです。
- 円は連続的な対称性を持っている。
- 例えば正多角形を不変にするような変換をまとめた群のような、飛び飛びの対称性を表す群を離散群という。
- 3次元ユークリッド空間における離散群を結晶群という。
そして、非ユークリッド空間でも離散群を考えることができて、3次元双曲空間における離散群をクライン群と呼びます。
これを視覚的に表現するためのツールとして、筆者の和田さんはOPTiというプログラムを開発し公開しています。 *3
本文ではいくつかの図が提示されています。おそらく上半空間モデルの図と思われます。
直近で読んだ『数学ガール/ポアンカレ予想』第4章で双曲幾何学を知ったばかりなので、それの応用を見ることができてためになりました。
円周の同相写像とフラクタル - 回転数とジッグラト(松田能文さん)
円周の向きを保つ同相写像から導出される回転数と移動数の振る舞いを調べることで現れる、ジッグラト(ziggurat)と呼ばれる自己相似形を持ったピラミッドのような図形について書かれています。
私にとっては難しく内容が読み切れませんでしたが、本文中にはきれいな3次元的なフラクタル図形が描かれています。
おわりに
冒頭に書いたとおり、私にとって幾何学は苦手意識がある分野でした。
苦手意識がある理由として、次の2つがあると思っています。
- 図形を操作する(切る、貼る、回転するなど)ことを頭の中でイメージすることが難しい。
- その操作を数式化して解釈するのがさらに難しい。
今回の特集記事を通して、(極端に言えば)図形の操作を可視化することでも研究が進むということがわかり、少し近づきやすい分野になったかなと思います。
最後に、これに関連して幾何学に関するTwitterでのルシアンさん(@Lucien0308)とのやりとりを書き残したいと思います。
ちなみに、トポロジーは図形の大胆な変形を行う分野なため、それらの数学的厳密性をつき詰めると、じつは非常に難しい数学になっています。
— ルシアン (@Lucien0308) 2018年6月22日
私もよく査読者に「その変形、もう少し詳しく説明して!」と言われてしまいます🤔(よく多様体をえぐったり捻ったりしています。笑)
私は想像力のみで結果を生み出しているというくらい、想像力に頼りっぱなしです🤔笑
— ルシアン (@Lucien0308) 2018年6月23日
様々な変形を妄想し、その実現可能性を厳密な数学によって制限していくような研究手法です😊
関数を「関数の関数」とみなす緩増加超関数/『数学セミナー 2018年3月号』読書メモ その6
『数学セミナー 2018年3月号』の特集「フーリエ解析ことはじめ」をようやく読み終えました。
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これまで5回にわたってまとめ記事を書いてきましたが、今回が最終回です。
前回は、フーリエ変換の基本的性質から始めて、フーリエ変換が 上のユニタリ変換であることまでを書きました。
今回は急減少関数と緩増加超関数およびその応用についてまとめます。
記号の定義
本題に入る前に、いくつかの記号を定義します。
まず、この記事では、 次元ユークリッド空間 上で定義された多変数の複素数値関数を考えます。
多重指数
の 個の直積集合 の元を多重指数を呼びます。
多重指数 と 関数 に対して、 (ただし、 )と定義します。
また、 と定義します。
多変数関数のフーリエ変換
これまでの1変数関数のフーリエ変換(その4で説明)を拡張して、多変数関数のフーリエ変換を定義します。
のフーリエ変換と逆フーリエ変換をそれぞれ次のように定義します。
フーリエ変換は次のような性質を満たします。
- 関数 の反転を と定義すると、 となる。
- に対して、拡大・縮小写像 を で定義すると、 となる。
- が成り立つ。
- と がともに可積分ならば、 となる。
フーリエ変換した関数も可積分か? ~ 急減少関数
上記で述べた性質の最後にある「 と がともに可積分ならば」に注目すると、次のことが言えます。
すると、可積分関数 のフーリエ変換 も可積分になるものがどのようなものかに興味が出てきます。
そこで、シュワルツにより急減少関数という概念が導入されました。
定義 次の2つの条件を満たす関数 を急減少関数と言います。
(1) 。
(2) 任意の多重指数 に対して、 。
急減少関数の全体を で表します。
本文では、急減少関数の例として、 が挙げられています。このときは となります。
緩増加超関数とそのフーリエ変換
ディラックのデルタ関数を形式的に計算する。
物理学者のディラックが量子力学の研究の中で、次のような「疑似的な」関数 を考えました。
は「通常の」関数としては扱えないため、シュワルツは次のように考えました。
関数 を考えます。
緩増加超関数の定義
ディラックのデルタ関数を含む概念として、緩増加超関数とその微分を定義します。
定義(緩増加超関数) 次の2条件を満たす写像 を緩増加超関数と定義します。
- (線形性) に対して、 。
- (連続性) ならば、。
緩増加超関数の全体を で表します。
を とも書きます。内積を のように書くことを思い出すと、合理的な記号に思えます。
緩増加超関数の微分
定義(緩増加超関数の微分) 緩増加超関数 の超関数の意味での微分 を、写像 と定義します。
に対して、 と書けるので、 も緩増加超関数になります。
同様にして、 を と定義します。よって、 は超関数の意味で無限回微分可能です。
緩増加超関数の例
応用例:偏微分方程式 の解を考える
通常の関数を緩増加超関数としてみなすことの応用例として、偏微分方程式の解の考察が説明されています。
与えられた 上の関数 について、 を満たす がどのような関数かを考察します。
偏微分方程式の両辺をフーリエ変換すると、 となるので、次のようなことが言えます。
フーリエ変換が となる関数 は、 の解となる。
ここで問題を一般化します。
指数 を となる に一般化して *8 、フーリエ変換が となる関数を考えます。
このような関数は の 次の分数べき積分またはリースポテンシャルと呼ばれます。
各関数に対して 次の分数べき積分を対応させる作用素を とします。つまり、関数 の 次の分数べき積分を と書きます。 *9
ここで種明かしとして、 は定数 *10 と積分を使って具体的に記述できることがわかっていて、本文には式が書かれています。 *11
ここで本題に戻って、次のことが確認できればよいことがわかります。
のフーリエ変換が となる。つまり、任意の に対して、 が成り立つ。
ここでは確認手順の概略を示します。
なお本文では、より詳しい説明がされています(特に(5)の計算について)。
(1) (通常の)関数 を考える。これは緩増加超関数とみなせる。
(2) 緩増加超関数 と急減少関数 の合成積を使って、 と表せる。
(3) (2)の両辺を超関数の意味でフーリエ変換すると、 となる。
(4) 証明すべきは、超関数の意味で となることである。つまり、任意の に対して、次を示せばよい。
。
(5) (4)で得られた式を通常の関数の積分として計算をして、確認完了。
(1)で通常の関数を緩増加超関数とみなして超関数として計算したのちに、(5)で通常の関数に戻して結論を得るというところがポイントと思われます。
おわりに
以上の全6回で、『数学セミナー 2018年3月号』の特集「フーリエ解析ことはじめ」のまとめが終わりました。
数学科時代に講義を受けて消化不良に終わった部分でしたが、10年以上経って概略は理解できたと思っています。
フーリエ変換は L^2(R) のユニタリ変換/『数学セミナー 2018年3月号』読書メモ その5
『数学セミナー 2018年3月号』の特集「フーリエ解析ことはじめ」。
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これまでの4回のまとめで、(1変数関数の)フーリエ変換の定義とたたみ込みの関係までをまとめました。
今回はフーリエ変換の基本的性質と急減少関数についてのまとめです。特集内の記事「駆け足で巡るフーリエ変換」の後半部分に当たります。
フーリエ変換の基本的な性質
反転公式が成り立つ関数として急減少関数を導入する
どのような関数についても、フーリエ変換の反転公式は成り立つとは限りません。*2
次の2つの条件を満たす可積分関数 では、反転公式が成立します。*3
- が 級である。
- 各階の導関数 が、任意の非負整数 に対して を満たす。
このような関数全体を と表し、急減少関数の空間と呼びます。*4
また、 ならば であることが知られています。*5
フーリエ変換のもうひとつの流儀
冒頭で説明したフーリエ変換 を定数 で割ったフーリエ変換の流儀 もあります: 。
この場合の反転公式は となります。
以降の内容は の流儀で書くと非常にきれいなので、この流儀で進めます。*6
フーリエ変換は のユニタリ変換
に対して、プランシュレルの定理 が成り立ちます。
ここで、区間 上の2乗可積分な関数の全体を で表します。つまり、 は となる関数 全体です。
には、上で定義したノルム が入ります *9 。
プランシュレルの定理が と書けることを考えると、フーリエ変換 が 上の等長写像に拡張できると言えます。
さらに は全射であることが知られているので、フーリエ変換 は におけるユニタリ変換であることがわかります。
ポイントは以下の点です。
おわりに
この記事の最後には の正規直交系をなすエルミート関数について書かれています。これはフーリエ変換の固有関数になっています。
また、フーリエ変換の直交変換不変性や球面調和関数に関する記述もあります。
次回は、特集内の最後の記事である「超関数とフーリエ変換」をまとめる予定です。トピックは以下のとおりです。
*1:各性質の証明は本文にあります。
*2:本文で挙げられている反転公式が成り立たない例:
*3:証明は本文にあります。
*4:シュワルツ空間とも呼ばれます。
*6:本文では を使った計算や定理が書かれていますが、この記事では にまとめます。
*7:プランシュレルの定理の証明は本文参照。パーセヴァルの等式は から得られます。
*8:フーリエ級数のパーセヴァルの等式は前々回のまとめで記載しました。 → フーリエ級数の3つの解釈/『数学セミナー 2018年3月号』読書メモ その3 - 7931のあたまんなか
*9:厳密には は なる関数全体で割った同値類であることが、本文で注釈されています。
*10:本文に書かれている の例: